第八話 魔術史授業

 魔術…物語では魔女や魔法使いが使うこの術はかつてこの地上に実在した

魔術を知るにはまず歴史を知る必要があるという

これは、ギュンターもヨハンもそう教わったそうだ

“知は力となる”魔術が家系で引き継がれていくにはこういう

知識を継続させていく環境が必要なのだそうだ

魔術における大原則は“学び知り実践し考察する”という

その工程を継続させる為に今存在する魔術師の家系のなどは

名家と縁結びをしていったりして貴族という隠れ蓑を手に入れたという

話も有るらしい、ギュンターもその口なんだろうか

話がそれたな、話を戻そう


かつてこの地上に魔法は存在していたしかし残念ながらそれが一体どんな物かは

未だよくわかっていない

同じように、昔この地上には竜や人狼、妖精といった御伽話にでてくる

モンスターといわれるものも実在したと魔術師たちはそう考えている

人類学や歴史学、考古学が発達していっている現在では

その全ては否定されていっている、しかしそれでも“魔”に関わる者は

自らの研究を肯定しなければならない

そうしなければ研究が死んでしまうからだ、継続できないだけではなく

信仰心にも似た“何か”が必要なのだなのでこれから語る大半が

非現実的だとしても、現在の科学水準や知識に当てはめて考えないでほしいと

ジークリットはそう前置いて話を進める


今から約一万年前、架空とされる幻獣が生きていたとされる時代があった

その頃には魔法と呼ばれるものはなく、人は幻獣とその土地や動物を取り合っていた

その頃の記述はいくつか発掘されていてそのいくつかは魔術師の宝物になっている

人間は生存をかけた戦いを強いられていて、組織だった戦いに発展していく

そう“戦争”となる、人間はそれを“神殺し”の戦いと位置づけ

狩りではない明確に相手を殺し併呑する殲滅戦争を行う

この“神殺し”の結果、神の血が大地に染込みそれが

この大地そのものが神の命が染込んだ呪物となり

その呪物の力を利用したのが魔法の始まりだと考えられている

未だ研究中でハッキリとした魔法の姿は判明していないが

その魔法によって人類を発展させていった、実際過去の遺跡を探れば

通常の学問では計り知れない数々の遺跡が発見されている

それは魔法と言うものが実在した証だと、現存している魔術師は確信している

その栄華は今の暦が始まったころまで続いたとされる


今から約2000年前ただ漠然とした魔法というものにかわり

特定の人種以外でも奇跡をその身に受けれる“宗教”が台頭し始める

人工的に生まれたそれは魔法や魔術を駆逐していった

人が人として生きていく為の規範を作っていく為でもあったと言われている


宗教の台頭後、宗教は国教として国家運営の柱となりそれ以前にあった

魔法及び魔術は異端者としてその業を破棄することを余儀なくされた

そこからの数世紀は魔法は記述されないがその残り香はあり

魔術の根絶にまではいたらなかった

息を吹き返したのは、一人の哲学者の思想からだった

哲学者の名前はエリオス・クルメリウス・ファウスラ

今では魔術師の始祖とも言われている

エリオスは哲学者でこの世のもの根源的なものに『イデア』と言うものがあり

この世のものはイデアの写し絵とされていて本物はとされるものは

そのイデア界に存在しそれをこの世を形成している要素『エーテル』によって

形作られているというものだった

ここで使われた言葉が後のエーテル論を生み出すことになる

哲学で定義されたこのイデア論は後に消えうせたはずの魔術を再定義する

ものさしとして後に使われることとなる


イデア論とそれから想像されたエーテルは当時の理論としてはあくまで

哲学する為の一つの思考の一つとされていたが

9世紀を過ぎたころにある男が自身を『魔術師』と名乗り王族に取り入ろうとする

その男の名前は『ジャン・アヴァンチュリエ』という男で最初は戦の勝敗や

運気を占う程度のもから、石や泥をこねて丈夫なよろいを作ったともいわれている

これは後の科学方面では鉄の精製を行ったのではないかともいわれているが

魔術師は『賢者の石』と呼ばれるイデア界にある始祖的素材を

自由に操ったのではないかと思われている

戦乱の中その功績は目覚しく栄光を手にできたのだろうが、理由は判明していないが

仕えていた国の王によって処刑されてしまう

そして当時同時期に魔術師として名をあげようとしていた者もその口をつむぎ

姿を消していった、これはアヴァンチュリエが山師だったからなどの説があげられるが

あくまで説は説だというのが魔術師の見解だ、言葉を濁す理由としては

『賢者の石』が未だ見つかっていないからだという

そこから魔術の言葉表世界に載るには5世紀ほどかかる

それだけ宗教社会が確立され、魔術師は異端扱いされていたのだった


14世紀も半ばに入った頃に魔術は宗教家の言うとおりの“悪”として

人類の前に立ちふさがることになる、異端尋問、宗教弾圧、宗教戦争の苛烈さが

限界点を超えた時にそれがおきる、一人の村娘が魔女として

火あぶりに処されていた時だ、血と共に大地にしみこんでいた人の魂が

一人娘に宿り始めたのだと言う、これは始祖的魔法と同じだと考えられている

かつての魔法は神獣、幻獣の類であったがこれを人間でやったのだ

辛酸を極める拷問の末殺された者や、戦乱に巻き込まれて殺された者

当時の現世は死霊が常世からあふれ破裂寸前だった

その地獄の釜のふたを開けたのがその村娘だった、その娘は動く厄災となり

この世にいるありとあらゆる命を奪いその身に宿していったという

その規模は凄まじく1時間もたたない内に小国の人間が全員絶命するペースであった

その凶行に多くの国は結束しこの村娘に対抗することになった

当時の人類の人口10分の1まで減った頃が村娘の腹は臨月の様に膨らみ

それだけの命をすって、まるで神を受肉させたようにも思えたという

それ以来村娘は『ゆりかごの君』と呼ばれる

命名由来は諸説あるが呼んだ人間も粗方殺されてしまったので推測の域を出ない

ゆりかごの君は最終的には現在も存在する宗教『アルアガナ教』の

『聖ヴァルゲオラ騎士団』によって斃される事となる

宗教も宗教で魔術とは違う過程を経て“魔”への道にたどり着いていたのだろう

何故そこまで言えるのか、それは彼らも同じく人の命を糧に力を得たのだ

異端尋問の拷問が生易しく見えるほどの凄惨な方法で

今ではこの“事実”はなかったことにされているがその騎士団は今も存在している

著しく人口が減った状態でこのアルアガナ教に逆らえる者もおらず

この時、一市民として潜伏していた数名の魔術師が生き延びるその中に

『ギュンター』『ファウスト』といった家ものは同盟を組みお互いの

知恵を交配させて、魔術を存続させる努力をしていく


17世紀になり、人口は回復して意気それに伴い経済も発展していく

それに伴い通貨として『金貨』が重宝されていった

だが金はあくまで貴金属そんなに採れるものでもなく

通貨経済を成立させる為に国家間での金脈の探索が行われた

ここで平民から貴族までなりあがったのがギュンターとファウストであった

魔術は元々が大地に染みた幻獣などの力を借りるという“体”だった

それ故か山などに自然と詳しくなり測量術にも長けていた

金脈を見つけ財を作った彼らは以降成金貴族として表舞台にでる

だがここでもう一つの魔術が生まれるそれが『錬金術』というものだ

錬金術は別の物質から金を作るといった物でその説明には

過去にあったイデア論やエーテルといった言葉を使ったが

その言葉が表に出てきたことに最初ギュンター家といった魔術の家系のものは

驚きもしたが、それが山師だと見抜き魔術がこのような形で露見し

また圧制にあうと芋づる式で自分等の身も危ないと思い

この行為を止めるべく動くことになる

これが結果的に今の魔術はまやかしであると自ら認めてしまうのであった

宗教に弾圧される前のとゆりかごの君によって生み出されたあの

命を大地や己の身に宿すあの常軌の逸したことこそ“魔術”なんだと“魔”なんだと

それ以外は所詮はこの山師共とかわらんのではないかと…

それまで、魔術師として連盟を組んでいた残り僅かな者たちも

自らの欺瞞を暴いてしまったことにより失望し姿を晦ませることとなる


このように魔術師が失望したこととは別にこの錬金術は金を精製することは

出来なかったが、新たな学問として『化学』を生み出すことになる

この化学は錬金術が執り行っていた胡散臭い儀式や支離滅裂な要素をそぎ落とし

人知の範囲内に納まるように進化して行ったのだった

当時化学の進歩は人類の科学の進歩と生活水準と戦争の進歩に大きく貢献した

火薬、蒸気機関、電気、等々今ある技術はこの時代に花開いたといってもいい

特に蒸気機関の発展は凄まじく蒸気機関が街を動かしてるといっても過言では

なくなっていった、蒸気機関が電気を生み出しそして電気への理解が進めば

それに対して順応していく、人はそれを繰り返していった


そんな科学技術が発展していくなか、かつてのエーテルと言う言葉が改めて名を出す

それはまたしても偶然の出来事だった

空を飛ぶ、これを現在実現しようとすれば蒸気機関を使った推進式飛行

水素ガスを使った気球及び飛行船と思い浮かぶが当時の学者は恐ろしくトンチキな

そうトンチキなことを思いついたのだ

それが遠い昔に哲学者が唱えた第五元素エーテルの存在だった

だがそのエーテルを天体を示す物ではなく四大元素のほかにある重さに関係する

その学者は唱えたという、引力の話は既に有ってその学者に

他の学会員たちは馬鹿にし中には基礎中の基礎噛んで含んで教えようとする者まで出たという

だが学者はその罵倒やそしりを意に介さず更にこう唱えた


「君らの言う、引力とはなんだ?物を手放せば下に落ちるというアレか?

 なら下とは何だ!?この星は球体だとかつての科学者が証明して

 認定したではないか、球体の下とは何だ!?この球体に上も下もあるか!

 なら何故人は重さを感じ、物は地面…この地球に吸い寄せられるのだ!!?

 それは我々が空気や水のように接し様にこの重さもこの世の総てに作用してる

 そんな元素が“第五の元素”が関係しているのではないか!!!

 貴様らが笑うのは勝手だが何故と問わなくなった思考停止の愚か共に

 笑われる筋合いは無いぞ!!」


実に威勢のいい発言をした男の名は『クルツ・ギュンター』

アルフレッド・ギュンターの曽祖父である

この啖呵で世間が動くことは無くこの理論が“世間”に実証されるには

まだまだ時間がかかるということだ

だが、世間を無視すれば既にある程度の実証実験は済んでいて

小さな結果は出している、それは俺が見た“例の出し物だ”

小さな研究所では出せることには限界があるということだな


ここで最初の話に出た“何か”がなんなのかと言う話になってくる

かつては山師のペテンを暴く為に自己否定をしてまでして

その発展に寄与した科学であったがこの科学は逆に

今まで魔術師の感性や才覚でしか捉えれなかったその“何か”が

手に取るようにわかるのだという

かつての虐殺を経て得る物ではなく、山師が行ったペテン行為でもない

マジックとサイエンスをより高度に高めていけば

具体的には今から3世紀以上先の技術を身につけれたとしたら

それはもう立派な魔法だという

その研究を続けているのが今の魔術部の主な活動だということだ


この長いようで短かった講義の最後に俺はジークリットに簡単に

エーテル学の?かい摘んだ内容と俺が見たものを空中に固定する手品の

種明かしを出来ないか頼んでみた


エーテル学というかこのエーテルと言うものは人間や生物のみならず

この世の全てにあるもので、目には見えないもので常に重力と言う形で

作用し続けているという

これも科学の発展が生んだ結果だそうだが

引力と言うものがありかつてはその引き寄せる波動のような物が

エーテルと呼ばれていたがそれとは別に作用する元素として

再定義しなおしたのが魔術師のエーテル学なのだという

つまり重たい岩や大きな建物が重たいのもそれだけのエーテルが

集まっているのであって、それを魔術で散らしてやれば

まるで羽毛のように浮くのだという

それこそ怪しい物だが、ここが魔術師の気難しいところで

あくまで魔術なので理論は教えても実践させる為の方法は秘術なのだとか

あの双子やギュンター自身は簡単にやってたが種も仕掛けもあるとか言ってたな

双子の方を締め上げたら吐いてくれるかな?


それで物を浮かす手品に関しては実践しながら見せてくれた

ジークリットはギュンターと同じようにハンカチを中に浮かせた

そしてここからが以前と違いジークリットは浮いてるハンカチに

人差し指をそっと乗せるとハンカチがだらっと垂れまるで

テーブルクロスをかけたテーブルみたいになる

そこから更に談話室にあったグラスを乗せ…


「まさか!」


一気に引いたのだ、グラスはそのままハンカチが浮いてた場所にそのまま置かれている

その光景に驚いているとジークリットはそのグラスの水を飲み説明をしてくれた


「エーテルはこの世界全てに有ると説明しましたよね?

 この私にも、少尉にも、このハンカチにもそしてグラスにも

 でもこれは、そのどれとも違うもの…力の波動と呼ばれる

 引力、重力と呼ばれるものにまで及んでいると考えて行ったものです

 力はベクトルで物質ではなかったのですが、ギュンター卿は魔術の基礎

 “学び知り実践し考察する”それをただ繰り返し

 力のベクトルを固定と言う形で操作する方法を見つけ出しました

 まだこれは“魔術”に関わっている者でも数名しか教えられていません

 そして人に見せるとしても、手品以上の印象を与えないようにといわれています

 今回この手品を披露するだけに、どれだけの時間と犠牲がかかったか

 知ってもらおうということで、ギュンター卿の指示で

 全てを説明した上でこれを披露させていただきました…」


そういうとグラスをテーブルに置きハンカチはポケットにしまってしまった

俺は気になり、そのハンカチとテーブルが置かれていた空間に指を伸ばしてみる


「か…硬い…」


弾力というより板のようだった、これに関しても補足で

あくまで流動的な力の波動のコントロールなので

やわらかくすることも出来るのだとか、これは凄いな…


ジークリットの話を終えてもギュンターはまだ帰ってこない

話すことを終えたジークリットは少しエキサイトしたのか

顔は紅潮し肩で息をしている…はぁはぁとこんな個室で…

言っちゃ悪いが俺何もしてないのに、ただ授業受けてただけなのに

スッゴい事後っぽい…


「…ありがとう、ジークリットさん…大変勉強になったよ」


「あ、あのボクこういうの初めてで…上手に出来たでしょうか?」


こういうのじゃなくハッキリ物教えたって言え!これ誰かに聞かれたら

絶対誤解されるじゃないか!!


「…いや…その…上手くできたと思うよ…授業…」


「よかった!、ボクこういう日が来ると思っていっぱい練習してたんです!!」


お前ワザとじゃないだろうな!


「それはそうと、ギュンター卿はおそいですなぁ」


俺は何とか話を真面目に持っていこうした、こいつは男だが俺の中では

女にカテゴリーしておいたほうがいいな、男はこんな良い匂いしないし

汗かいたら艶が出るなんてことないもんな、そういう意味では

本当にチンコ付いてるのか気になるぞ、いや付いててもかまわないとか

言ってた人間がいたって言ってたもんなぁ、そりゃいるんだろうが

だが実際にそいつらはそれを確認したのか?

…なんだ俺密室だからか気になりだしてるのか?

落ち着け、考えてみようもしだ付いてたとして、どう調べる?

そりゃもう誤解じゃすまないだろう、でも女だったとしてもやっぱ駄目だろう

…なに考えてるんだ俺…ギュンター早く帰ってこないかな

意外な理由で、計画がぽしゃるぞ


「少尉…何をお考えになられているんです?」


…この人も絶好調で色っぽいしなぁ


「いや、換気でもしようかなぁって、貴女も少し暑そうだし」


「ごめんなさい、ボクったら…汗臭かったですよね…」


…この人、この人…

そんな馬鹿なやり取りをしているとノックが聞こえる

どうぞと応える、やっとギュンターが帰って来てくれた


「やーお二人さんおま…」


言葉の途中で顔がこわばる、室内といえば講義とはいえ簡単なレクチャーで

特に筆記用具とかを出してる物ではなく

ジークリットは語ってる途中で熱くなったのか上着を脱ぎ未だラフな格好で

俺もその熱気に当てられたのと狭い室内とあいまって軍服の首元を少し緩めていた

そして、人体から発したとは思えない甘ったるい空気

この現状にギュンターは何を察したんだろうか?


「…あと一時間、外で時間を潰してくるよ」


ギュンター!!!


「あ、あのギュンター卿!」


ジークリット?


「彼も私も、もう済んだあとですから今終わってゆっくりしてところなんです」


ジークリット!!!!


「講義がな!!!」


そう俺は叫んでしまった、このジークリット絶対ワザとだそう思わずには

いられないのであった

 


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