第十三話 戦争の目的

 魔法に関してはにっちもさっちもいかないので

早い所あの“爺さん”の所に行くか

俺はそう思い歩き出す、実は今いる喫茶からは思いのほか近く

正直あいつらがいる状態では居場所がばれて何されるか分かったモンじゃないからな

勘定を済ませた俺はそのまま向い通りから路地へと入る

その先に小さな古いアパートがありそこの5階が目的の爺さんの部屋だ

実はクレマンより先にここで知り合った爺さんで、クレマンより現状の

俺には必要になるであろうそのじいさんとは


「クレイン・スタンバック“退役少将”おられますか?」


ノックを三回の後そう声をあげる

そう退役とはついてるが少将だそして俺が読んでた戦術記録もこの爺さんのものだ

たいした爺さんで今より昔の戦争になるが随分な知将であり猛将だったそうだ

戦場で左足を無くして以来は用兵学で教鞭振るっていたが

今回の戦争が勃発し現役への召還を望まれたが、頑なに拒否されて

同じく足を無くした俺がその交渉役に抜擢された訳だ

厭戦気分させないように、訴えたりしてる傍らで勉強してたのはそれだ

同じ“足欠け”同士何かこう…共感できるものがあるかというと


「アホみたいな声を出すな!さっさと入れ!」


うーんあるとは思えない感じ…もう結構長い付き合いになるのになぁ


「失礼します」


そういって入ると“質素”その言葉が思い浮かぶそんな感じの部屋が目に入る

そんな部屋の窓際にテーブルがあり

スタンバックが腰掛けている、俺はその向かい側に腰をかける

俺の席には冷めたお茶がいつもある


「遅れたお前が悪い」


お茶を見つめるたびその言葉が飛んできて最初は時間早めたりなんなら

予定日の前日に言ったりもしたがやはりさめたお茶が置かれているだけだった

その真意が解ったというか察せれたのはそれから随分後の話だが

それ以来はお茶に関しては気にならなくなった


「いえいえ、有難く頂きます」


それ以来のこのやり取りから雑談を始める

クレマンとは違ったこの空気は何か俺の無くした部分を震わせるものがあるのか

ハッキリとしないデジャヴュに襲われる

いつもなら話題はこちらから振るのが定例で今回何から話そうかと考えていると


「首都はどうだった?」


珍しくスタンバックの方から話題が飛んできた、しかもそんなのどこから聞いた?

と思わんばかりのだ


「どこで、聞かれたんです?」


素直に聞き返す、この爺さんに腹の探りあいは穴が開くレベルだから避けたい


「何でも、ギュンターとか言う魔法とかとかいうアホみたいなことぬかしてる奴に

 会ったそうじゃないか、トロイ」


…なんでそこまで知ってんだこの爺さん


「はぁ…まぁ…」


「教え子から電報が来ててな」


…教え子…直接の面識といえば


「もしかしてその教え子って…」


「ヨハン・ファウストだ」


またヨハンか!、ここ数日よく耳にするなアイツ


「まぁ、それはそれとして」


あ、話題を逸らされた


「お前の持ってるその鞄、中には何がはいってる?」


どうやら俺の兵棋セットが気になったらしい、気まぐれすぎる猫みたいな爺さんだな


「あぁこれはですね…」


そういうと、俺はテーブルに兵棋セットを広げた


「ほほう、兵棋演習の紙版か…」


スタンバックは俺の出した物に紙版と妙に感心めいた言い方してくる

それもそうだ、実際の基地には作戦室に行くとこれよりも何倍も大きな

模型があって、それを使って作戦内容を吟味したりしてるのだ

フェルキアは小国で侵略というより防衛戦争の方が多いせいか

戦う地形も限られているというのもあるそういう歴史からか

地形はあくには一段として余念がない

大国に挟まれている状態でいつ衛星国かどちらかの国に

吸収や土地を割譲されてもおかしくないからだ

現に今その危機に瀕してるわけだし


「えぇ、現在の国境戦争の地形を描かせたもので」


「描いたのは誰だ?」


「えっと…」


どうしよ、13歳の双子の女の子が描きましたなんて言いたくないし


「…まぁいいだろう、そいつがスパイじゃなけりゃな」


あ、そういう考えか


「いえそこは安心していただいて大丈夫です、ギュンター卿の身内の方ですので」


まぁややこしい人物ではあるが、そこらへんは…まぁ


「そうか」


スタンバックは俺の返答を無視して広げた図面に駒を置いていっている

歩兵、砲、車両、戦車、列車、飛行機、エトセトラエトセトラ

その配置は中々どうして…


「退役されてるんですよね?」


「馬鹿か?そうでなきゃこんな所にはイネーよ」


「それはそうですが…」


現状の自軍の配置はまぁわからんでもないが

敵に関しても結構同じように配置されている

というのは、現在の戦争は膠着してるとはいえ一進一退の状態で

偵察が行き届いていなかったかりする

理由としては…


「航続距離は短いが敵は航空機を所持している、現行では技術の進歩より

 航空基地を前線に作った方が早いから陸路を進行し制圧して行っている

 だがこっちとしても黙ってみてるわけでもないから

 侵攻に対し攻勢をとって、戦線を押し上げていってる本来ならここブリニストが

 国境都市だったんだがな、それを許さないのが航空機の存在だ…

 アレは空からちょっかいを出してくるこっちとしてはやっと連発式の砲を

 実装し始めてるとは言え、配備は遅くこんなもんがいっぱい飛んできたら

 防壁なんて意味をなくす…だから防衛戦争なのに敵地に侵攻しなけりゃならない

 侵攻して航空基地をたたいては、飛び立った航空機に叩かれ

 戦車で蹂躙されては、大砲でやり返し、人員をそこに配置して防波堤にしないと

 また航空基地を作らせる羽目になるから、歩兵はそこに塹壕を作らなきゃらなん

 ブリニストよりヘクサォ領土へおおよそ20kmってあたり…

 ここが首都への空爆される危険地域って訳だな、なぁトロイよぉ?」


俺が今考えようとしたことスラスラ喋りながら、この爺さん駒を配置してくる


「丁度てめぇの方がフェルキアだ、どうやってこのクソみたいな状況を打開する」


そうだこの爺さんと知り合って最初に出された問いがこれだったな、打開策か

軍への復帰の為、俺に出したテストのようなもんだがこの爺さんが

まだここにいるということは未だこのテストはクリアできてない

いつもはただ、あれこれ話すだけだったが今回はこのように視覚化してきてる

こう俯瞰で見るとよくわかるが、無意味な消耗戦だ

こんな戦いに正規兵を使いたがらない気持ちもよくわかる

減刑か無罪を条件に犯罪者を死地に送って兵士を温存もしたくなるな…

この問題は防衛側が突出していて兵站線が長くなっているという

奇妙な点だ、実際ブリニストまでは物資は届いている

爺さんは20kmといったが実際はもう少し奥に行ってしまっている

これは完全に相手の戦術だろう、奥に引き寄せて消耗させ潰して

残存兵力を削りおそらくはこのブリニストに航空基地を作る算段だ

でもなけりゃこんな無益なこと自体おかしい

何故航空機に頼りすぎてるのか?もしかしたら敵将が馬鹿で

飛行機に頼ってるだけかも知れんがそこまで楽天的にはなれない


「トロイよぉ…」


人が考えてる時なんだ?


「初めて会ったときに、俺話したよな“戦争の目的”ってをよ」


「あぁ、若い兵士なら女の為、武官なら昇進、父親なら家族の為ってアレですか」


「それはな正確には戦争の際の目的なんだがよそれは」


「そうでしたっけ?」


「あぁ戦争に目的を持つ人間なんてそもそもいないって話さ…

 政治家なら戦争は外交の手段だし

 兵士なら戦争は与えられた義務であり責任だ

 それが上に上がれば昇進という考えも芽生えるだろうがやはり手段だ

 それは俺だって例外じゃない武功を立ててより高みに上りたいと思ってたしな」


向上心か確かになるほど、確かに戦争行為に目的意識がある人間など

知ってる限りじゃ俺と“奴”ぐらいだ


「確かに言われてみたらそうですね…ですが…それが何か?」


「何かってテメェ…折角こうやってわかりやすく図で見てるのにワカンネェか?

 なら言うが、この戦争の理由は誰も解ってないんじゃないか?

 構図はあくまでヘクサォの侵攻戦争の様に見える…が侵攻理由があやふやだ

 新聞で書きたてられていたような話だってどこから出た話か…

 それでだトロイ、そしてそのあと何が起こった?」


「ヘクサォ飛行部隊が…」


「そうだ飛行機はそれまではあくまで“試作段階”実戦といっても武器がなかった

 それに気球や飛行船で空を飛ぶだけなら事足りたからな、

 だが前方装填式式のライフルからカートリッジ式になった鉄砲が

 連射機能と冷却方法何とか詰め込めその飛行機に実装されてどうなった?

 ただの羽の生えた船は一気に航空戦力ってのになってそれはフェルキアを挟んだ

 ヴィージマにまで開発の余波を与えてしまったよな?」


「…」


「だんまりか、なら地上はどうださっき言ったように鉄砲は連射が利くようになり

 戦列歩兵が戦場から消え、機動兵器の発達で大砲の移動が楽になった

 戦争の速度が一気に上がったよな、兵士の装備も携行可能弾数も増え

 再装填の早くなった、以前もあった産業革命が新たな市場に向けて

 火がついたようにせっせと新しい武器、新しい兵器、新しい道具を作り始めてる」


「何が言いたいんですか?」


「この戦争は誰かが仕組んだ、誰かは知らんがその結果兵器の近代化が

 一気に進んだ、この戦争を望んでいる奴は兵器を進歩させる為だけに

 この戦争を起こしした気がしてならないんだ、だから俺は軍を辞めた

 丁度足も無くして、いい頃合だったしな」


…先を越されたな…俺が思ってる相手ならの話だが

確かにこの祭り俺は中途参加でいい火種程度に考えていたが

奴としては、火種を起こす道具が要るんだ、奴の考えでは

火打石より、マッチより、ライターが…


「こんなクソみたいな戦争に対してもし、俺が戻るとしたら

 この戦場をひっくり返せるような案を出した時ぐらいだな…

 で?トロイいつまで考えてやがるギブアップか?」


「ならこれをこうして…」


“奴”のことを考えていた所為でうっかり手に持っていた

列車の駒を相手の飛行機部隊のところにやってします

さっきまで補給をどうするか考えてたんだっけか

普通ならこれは手違いで済まされるんだが…この爺さんは


「トロイ、そりゃ列車だよな列車、列車ってのはよ~線路がなきゃ走れんわな」


絡んで来やがる、こっちの思惑を知ってか知らずか


「あ、いやこれは間違えでこれは補給線をですね」


「いいか、トロイお馬鹿なお前にいい事を教えてやる、これは平面で見てるが

 飛行機ってのは空飛ぶモンなんだ、知ってるか?列車より高くとぶんだぞ?」


聞く耳持ちやがらねぇ…


「トロイよぉ~いいかぁ飛行機ってのはなぁこーんな高く飛んでるんだぜ?

 こ~~~~~~んな、わかる?なぁなぁなぁ?トロイちゃんよぉ」


スタンバックはそうおどけながら手に持った飛行機の駒を高々とあげた

何でこの爺さんはこんな子どもっぽいこと言い出すのか…見え透いた挑…


「だったら!列車だって飛ばしてやりゃいいだろうこう!!」


…発と解っていたのだがあまりにも鬱陶しいかったのでつい

爺さんが飛行機を持って上げてる手にぶつける様に列車を持っていく

その時、爺さんと目が合った、それまでのふざけた様な表情は消えうせ


「“これの為に”に魔術師とやらを呼んだんだな?トロイ」


鋭い軍部が欲しがってる知将としての眼光と共に俺に言葉を放つ…


「…ハハハハハハは…はちょっと悪ふざけに対して熱くなっただけですよ

 大体…列車がそら飛ぶわけ…」


……


「せめて自分に嘘ぐらい付けるようになっとけアホ」


…何でそこまで言い当てる…この爺さん


「7日ほど前だったか、広場でな大道芸やってたんだ…」


大道芸?


「板を宙に浮かせるってへんな物でな最初は見向きもされなかったが

 その内みんな何で浮いてるのか気になりだしてな

 その芸人も板を触っていいっていうから大人気でな中にはタネを暴こうと

 大きなハンマーまで持ってきた男もいたっけな…」


!!?


「俺もなその板を触らしてもらったんだ…どこ触ったと思う?」


「…さぁ?」


「俺は気になってな、その板をしたから押し上げるように触ってみたんだ」


…この爺さんもあれみてたのか…


「結果は“板には触れなかった”だった」


その言葉を最後に長い沈黙が続く…それがどういう意味か

やはりこの爺さん…


「もう帰れ」


「へ?」


「それからな、貴様らの召集に応える訳ではないがお前が連れてきたという

 貴族のボンボンの面でも見にいくからよそれだけお前の上司に伝えとけ」


「そ…それじゃあ…」


その続きを言おうとしたら、爺さん癇癪起こした様に

俺にカップやらを投げつけてきた、俺はそのまま追われる様に追い出されてしまった

どこまで察してるかは不明だがあの爺さんの気を少しは引けることが出来たようだ

…あくまで復帰を取り付けたわけでもないのに、こっちの手打を晒す羽目になった

まぁあくまで片鱗だけだとしてもだ…










それから後、上官に連絡を済ませ官舎に戻る途中に見慣れた人影があった


「やっほ…少尉さん」


気恥ずかしそうにしているクレマン君だ


「やぁ…」


昼の件の所為でちょっとだけ気まずそうにしている


「謝ろうと思ってちょっと…探してたんだ」


「謝る?何を?」


「意地悪いわないでよ…お昼のあのジークリットって人のときと…」


「時と?」


「あの双子に会ったときに少尉さんのお尻蹴飛ばしたこと…」


「なんだ覚えてたんだ、そんなこと気にしてないよ」


「双子が話題に出した時に顔には謝って欲しいなぁって書いてたし」


「え!?顔に出てた!?」


「うん」


そのあと少し沈黙が続きふとクレマンが材料買い込んでることに気がつく

お詫びになにか料理でもご馳走してくれるそうらしく

そこは素直に嬉しかったので承諾した


家に帰るとそこには、エプロン姿で新妻のように俺の帰りを待っていた

ジークリットが居た訳だがまぁこの話はまた今度機会でいいか…


まぁ一言付け加えるとクレマンさん結構切れてた上に

男かどうか確かめてやるって怒った勢いでジークリットの股間弄ってたな…

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