第六話 枯れた技術の末裔の語り

 少佐が去ったあとのテーブルは和やかであった

2人もさっきのぴりついた雰囲気はなく、無邪気に兄にじゃれている

そんなじゃれ付いている会話で昨日と同じことを

兄にもやらせようと言うのだ、確かに俺から切り出すと何かと詮索されるかも

偉いぞ二人ともあとでアイスでもおごってやるかな

そうして妹たちにせがまれた兄は手元にあるナプキンとグラスを使って

その声にこたえた

その光景は正しく昨日、サブリナとゾフィーの二人が見せていたものと同じだった

ただ、場所はレストランでやっていることは

中に浮いたナプキンの上に水の入ったグラスを乗せているのだ

コレには、通りかかったウェイターも驚きこちらをじっと見ている

この現象を起こしているのが双子の兄である

アルフレッド・ギュンター氏であった


「やはり…特に仕掛けがない…コレが魔法…すごいな」


俺はあっけにとられ、つい感嘆の言葉が漏れてしまう

その言葉にギュンターは失笑していた

俺…なんかおかしなこと言ったかな?


「いや、貴方ような軍人らしい軍人がこんな物に興味があると思わなかったのと」


と?


「これにもちゃんとタネも仕掛けもあるってのを思うとついね…」


なるほど…そういうことか

まぁそこらへんに関しては特に詮索されるよりいいか

だが…きな臭いオカルトじゃないようだな


「なるほど…、こいつはお恥ずかしいですね」


特に感情を表に出すこともないだろう


「ですが…これは正直言って無用の技術でしょうこんなの…

 軍事方面で“魔術”というのはほぼ死んだ技術ですよ?」


何も言ってないのこの男いきなり確信に近いものとついてくる


「かつてあった魔術は科学技術省の一部門になって成果はほぼ出せず

 お飾りだけの部署でほぼ戦争からも外されていますよ

 かつては色々やってたそうなんですが、

 今となっては科学の方が凄いですからね…隣国…今は敵国ですが

 ヘクサォが作った翼船…飛行機でしたっけあれとかの方が目覚しいですし

 今は科学の時代です、先ほど述べたとおり科学技術省は今年限りで

 もう魔術部には予算は出さないそうですし、まぁ最近の成果と言えば

 このような、物を空中で乗せる程度のことしか出来ません

 彼らが望むような結果は出せていませんからね」


なるほど、ここは俺が勘違いしていたってことか

もう少し立場が強いと思っていたが、まさかここまで弱いものとは

だが…


「いやぁ、ご明察お見事ですなギュンター殿」


この返しにはギュンターも驚く、何より何に対してなのかわからないのだろう


「彼女らにも話していなかったことですが、その技術の軍事転用

 まさか一言も出す前に言い当てるとは…ですがここから先は込み入った事情

 出来れば内密にお話できたらと思います、お願い申し上げます」


正直腹の探るような会話はさっきで辟易したので、顔に似合った交渉で

相手に差し迫ってみることにしよう


「…え!?そそれは…」

「ですから、ここから先は内密に…」


そう妹2人に目配せをした、2人と言えば少し不服そうな顔をしていたが

兄の嬉しそうな顔をみて少し複雑そうな顔をしていた

まぁこの展開は昨日の話運びで少しはわかっていただろうがまぁいい


「でしたら我が家に、お前たちも今日は泊まるだろう?」


俺のあとに妹たちにも話しかけ妹たちは満面の笑みではいと返事した

我ながらやっと何かしら出来る嬉しさに身が少し軽くなるのを感じた



時と場所は移りギュンター邸

時間は17:20で首都郊外で移動はギュンター氏の自動車だった

まさかこの時代最先端の自動車に乗れるとね

魔法が好きっていうと科学嫌いでてっきり馬車か辻馬車でも拾うのかなぁって

勝手に思ってたがこれは中々…やたらがたがたしてお尻に悪い

汽車は平気だった双子も兄の機嫌を損ねないようにしていたのか

小さな声で痛いとかあともうちょっととか言っていたな

俺は聞かなかったことにしたが、まぁついたときは少し足元がふらついていたが

なかなか面白い物に乗れてよかった


そうしてついた邸宅は貴族を思わせるような大きい邸宅だった

門番がいたりメイドがいたり執事がいたり…あれ?これって

レストランと何も変らない場違い感がするな


「ささっ、リューグナー少尉、ずずいっと中にお入りください」


妙に興奮気味のギュンター氏、そしてその招きにずずいっと招かれる俺

そうしてその後に続く不機嫌な双子

そうして時間は夕食の頃合いに

出された料理はまた凄く美味そうな物ばかりでがっついて食べそうになるが

それをこらえて、行儀よく食べる…大人ですからっておもったが

あの双子、昨日は俺んちでシチューとパンをがっついて食ってたくせに

レストランでもここでもしっかりテーブルマナー守って食ってやんの

その上こっちのマナーがおかしいってケチまでつけてくるんだもんな

全く…

更に時間は経ち、21:02

双子は用意してる二階の寝室へと案内され俺とギュンターだけが

居間というか来客用の部屋にいる


「それで…そのこの魔術がどのように役立つのですか?」


ソファーに座りグラスに酒を注ぎ

その酒をクイッ飲み干し話を切り出したのはギュンターだった

ギュンターのその目は俺が期待した以上に乗り気だった

話運びは慎重に…相手がそんなのことは無理だと言わないように

俺はゆっくりと話し始めた、あくまで相手がどこまで出来るか

というのを除いた青写真的な計画である


「…そんなことが…本当に可能なんですか?」


それが聞きたくて話したのに何でお前が聞き返しているんだよ!!


「…正直微妙な所でしょう…ただこのまま技術省の開発の進捗具合では

 この国は駄目でしょうな、今はまだ、国境での小競り合いですんでいますが

 その内、飛行機の航続距離が伸びるか、現状より近い場所に飛行場を

 作られたりしたおしまいでしょう、わが国はとにかく工業生産力で

 完全に遅れをとっていますからね、今から飛行機開発を計画してるんですよ?

 正直ヘクサォは今の技術向上をすればいい、教義自体は既にあるんですから

 それに引き換えわが国は開発した兵器の訓練と教義作成に追われる

 全てが終わったころには全てが手遅れでしょうな」


俺の返答を聞いた後難しい顔をしている

そうして…


「国を…救えるのですか?」


「それは正確ではないですね、救える機会をより多く得れるというわけです」


俺は期待の目をしたギュンターに即答した

野心もあるので、俺自身一足飛びしたい気持ちもあるが

この案はあくまで現状をどうにかすると言うのと

公的とは他に“私的”目的でも何かしら面白いことができるだろうと言う

率直的な考えからきているのだから

そう、“国を救う”以外にも使いたいのだ…


「リューグナーさん率直な意見を言っていいですか?」


「どうぞ…」


「正直言って馬鹿げてる…あの子達の拙い手品じみた物を見て

 良くそんな途方もない事を思いついたもんだ」


「…」


「ですが…、昔の魔術の役割ばかりを考えて研究しかしてこなかった

 我々のような落ちこぼれでは思いつかない発想だ」


「それでは…」


「協力させて頂きたい…我々には上層部を納得させるだけのアイデアと

 そこにたどり着くまでの目標がなかった、だが貴方はその二つを

 私に提供してくれた、ヨハンの言うとおり前線で鉞を持ってるような

 人ではないようだ…」


どうやら俺の案はギュンターに気に入られたようだ


「そういえば、ギュンターさんとファウスト少佐どういうご関係なんです?

 急な会合にも、顔を出すと言うことは友人と言った所ですかな?」


不意にでた“ヨハン・ファウスト”の名前に反射的に反応し考えるより

口が動いてしまった

その問いに、ギュンターは少し言葉が詰まり押し黙った


「いや、不躾な質問でしたないや失礼」


俺は即座に謝罪しその話題から離れようとする、まずったかな


「いえいえ、確かに彼とは友人です彼は軍人として、私は文官として

 元は同じ道を歩んでいたんですが、何時の間にかそれぞれ違う道を…

 歩んでいまして…彼は私にとって大切な友人ですよ」


含みがある言い方だな…そこに関して触れるべきではないか


「ふっ…だから嬉しいんです」


向こうから話を続けてくれるらしい拝聴しよう


「この魔術は先の大禍によってほぼ死に絶えていました、

 ですが、かつてその業にかかわっていたものとその家系は

 終わった物と知りつつも、それに対する執着からは逃れられませんでした

 それは、この私も同様でファウストの家系の彼も同じ物だと思っていました

 幼少の頃から、私もヨハンもまるで宝物を探すように

 学術書を読み、実験と証した遊びをしていましたが…彼は

 とっくの昔に気付いていたんでしょうね…そんなもの夢物語と

 ヨハンは器量に優れた男でしてね…私とは違い

 “この国”に役立つ事をするといい、魔術の道を捨て

 軍人として目覚しい活躍をしました、彼は魔術を科学的再解釈し

 人の心を惑わす呪言など、かつて読んだ魔術書などの知識を

 心理学として応用して、多くの情報や戦場の感情のコントロールと

 そして、戦術教本の作成にも多大な貢献をし

 そう思えば、かつてあった錬金術の書物から今の化学では見過ごされていた

 薬品の発見をしたり、更に彼自身の身体能力も高いから

 前線でも活躍してて…本来ならもっと高い地位にいてもおかしくないのに

 『前線こそが我が居場所であります』といっててね…

 …あなたが驚いてくれたこの“手品”も種と仕掛けを与えてくれたのは

 ヨハンなんです、とにかくヨハンは私にとって不釣りあいな友人なんです

 私は彼の気持ちを裏切ってしまったのに…彼は顔色一つ変えず…

 だから…今私は嬉しいんです、彼の役に立てる!そう思うと!!」


気になることを言ったがまぁここまで熱心な理由が聞けてよかったとするか

そのあとも、ギュンターは饒舌にヨハンの事を喋り続けた

俺としては出来れば物を宙における原理が聞きたいなぁと思い

言葉の隙間を縫って質問をしてみたがその頃には

酒が良く回ってたらしく、本人は説明しているつもりであったが

エーテルの再解釈と振動がなんたらかんたら…ちょっとクダを巻き過ぎて

ギュンターの言ってることがよくわからなかったな

そうしている間にギュンターは寝てしまった

俺は執事にギュンターを任せ部屋を後にする


「全く今日は疲れたなぁ…もう寝るか」


時刻は23:02、双子も寝てるだろうし出来れば俺も寝たい

理論は明日ギュンターの職場で聞けば問題ないかな

そう結論が出た以上ちんたらこんな所で油を売ってるわけにはいかんな

早く寝なくては…


「また疲れたですか…本当トロイはオジン臭いですね」


…この声にこの反応は


「ゾフィーか、夜更かしは良くないぞさっさと寝てると思ってたぞ」


二階の来客用の寝室に向う階段で階上から俺を見下ろすように

ゾフィーが陣取り睨みつけている


「私はサブリナです、トロイさん」


そう返事をする顔を見るが見分けがつくはずもない


「私たちだって寝てたかったのに、“お兄様”がヨハンが~ヨハンが~って

 大きな声で騒いでるんだもん!そりゃ寝れないよね~サブリナ」


これまた怒りに満ちた同じ顔が物陰から現れる

この双子よっぽどヨハンが嫌いらしいな

まぁ俺としてはあまり関わらない方がいいだろうが


「酔った勢いだ許してやれよ、それと俺は…!」


俺の言葉を遮るように双子の片割れが踊り場に合った花瓶を投げてきた

子どもが投げれるぐらいのサイズだ何とかキャッチして事なきを得る

だがいきなりこんなことするなんて何のつもりだ


「お前ら冗談も大概にしろよ…」


花瓶を持ったまま双子を睨みつける、だが俺の目には

初めて会ったときでも、その晩夕飯をご馳走した時でも、今日のレストランの時でもない

全く異なる異質な表情をした2人が映っていた

どうやらまだ寝かしてはくれないようだ


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