第五話 最初の第一歩

 翌日、我々は汽車に乗り長い車内での時間をカードゲームで過ごし

正午過ぎに首都ヴェルムクリントにつき

そこから待ち合わせ場所のレストランに着いた


「長かったなぁー…」


俺がそう感慨深く今回のたびの感想を述べていると


「トロイ!おじんくさいよ」

「ゾフィー!ごめんなさいトロイさん、こらゾフィー!!」


子供は元気たちは元気が良く俺をからかってくる

元気だなぁお前ら…

俺もう少し若けりゃコレぐらいはしゃげ…るわけないか


「それはいいが、この…えらく高級そうなお店がそうなのか?」


そこだった、昨日クレマンと行った店でもたっかいなーとか思ったが

流石は首都だハイソでかつエレガントだ、今回もまぁ私服だ

でもコレなら軍服で来た方が…いやいや!昨日同様これも

私的隠密行動なのだ!、公私は分けなくてはな、でも…


「入って…大丈夫なんだよなぁ…」


「何言ってるの入らなきゃお兄様に会えないじゃないの!?」


ゾフィーはそういって入っていく、サブリナもあとに続き

俺もヤケクソで入っていく

やはりと言うべきかやたら高価な装飾品だらけのレストランだ

この2人もそれなりの衣装を着ているとはいえ

昨日は田舎の大道芸で暮らしてる旅の双子でございって雰囲気だったくせに

何故か馴染んでやがるし…俺はそわそわしながら双子についていくことにする

一応電信で恩人の同席の連絡は入れてるらしいんだが、


「「ア…」」


不意に双子が声を漏らす案内された席には若い爽やかな男性が座っていた、軍服を纏い階級は…少佐、つまり上官だな


「お兄さんじゃないのか?あいさつ…」


さっきの朗らかな感じとは裏腹に何か怯え切った様子だ

その感情を読み取ってしまったら俺まで緊張してしまう


「トロイ・リューグナー少尉ですね…」


柔らかい、実に柔らかい声で俺の名前を呼んだ


「は!その通りであります!少佐殿」


敬礼と共に軍的な回答で返す

俺自身全く予備知識がなかったんで覚えるのに苦労したもんだ


「畏まった挨拶はいいよ、トロイ君」


この声は実に心地よく“危うい”何か余計なことまで言ってしまいそうだ


「私は、ヨハン…ヨハン・ファウスト…階級は…

 見ての通りの少佐です、私も公務の間に来たのでこんな仰々しい

 格好で来てしまいましたが、とりあえずは私用ですので

 階級は気になさらずに、公私は分けていきましょうトロイ君」


ヨハンはそういい着席を促してくる

…ここはなんだうーむ…クレマンの気持ちがよくわかるぜ

一応の距離感を保つ為ににも階級で呼びたがってたんだな

アイツの理由は知らんが、今の俺なら理解できるぜ


「では失礼いたします、少佐」


殿は外し、力まず喋り、薦められた席に座る


「“少佐”ですか…なるほど仲良くなるにも先ずは一歩ずつと言うことですね」


ヨハンはそう苦笑いすると、遮るようにぞフィーが声をあげる


「“少佐”!お兄様は…お兄様をどこにやったの!」

「ゾフィー!」


声をあげた勢いで食って掛かろうとするゾフィーをサブリナが止める

その光景に俺は少しあっけに取られてしまったがヨハンは冷静に答える


「彼は今お手洗いに行ってるよ、さぁ君たちも席に座り給え」


今回は珍しく双子の意見が一致している、“敵意”だ

あの温厚なサブリナでさえ表面上は平静を装っているが

明らかに敵意を出している、止めに入ったのも

止めなさいと言うよりは、まだ駄目だって感じの

まだ何も出来ないというやりきれない感じの


「やぁ!ゾフィー!サブリナ!」


一人の身なりのいい優男がゾフィーとサブリナに声をかける

2人は少し戸惑い、苦虫を潰した顔を一瞬だけ表に出すが

すぐに引っ込め笑顔を作り


「「お兄様」」


声をハモらせて兄を呼ぶ

そのあとは何時もの双子だった、兄になつき

お互いの役割分担をわきまえたなつき方をしている

俺としては、この少佐にはさっさと退場してもらい

尚且つこの双子にも遠慮してもらって

このお兄様とお話がしたいのだが…まてよ?


「少佐、お一つ聞きたいことがあるのですが?」


「なんです?トロイ君?」


「いやなんですかな、首都大本営勤務の少佐が何で前線のしかも元二等兵の

 自分なんぞの名前とかご存知だったのかなぁって思いまして、聞いた話だと

 少佐はこの顔見知りの彼の会合に公務の合間を縫って来られたとかで

 何でそんな飛び入りで参加したはずの席に、これまた飛び入りで参加した

 一応電信でもう一人来るってことは伝えてたんでしょうが…

 電信には“恩人”としか書いてなくどうもここで紹介する予定だったそうで

 なので、その何でご存知なのかなぁって、思いまして私のことを」


まぁ簡単な世間話だな、俺の9階級昇進とかいう異例なことも

前線での話しだろうし、マスコットの役割もソロソロ終わりだろうから

もう随分前の新聞の話くらいでしか俺のことをわかる機会は無いだろうしな

それとも、上層部の目にでも留まったのかな?


「ふふ…、私の趣味にスクラップブックがりましてね…

 三ヶ月前に現れた英雄譚のことは印象深かった…って言った所ですかね」


…ガーンだな、期待をくじかれた

まぁそんなもんだろう、だってこれからその方面で上層部の方に

パイプを作ろうしてるんだから


「でも良く頭が回る方ですね…このような人材が二等兵で前線送りとは

 少し私の上司とは話をしておく必要がありそうですね…」


おや?


「はは…これはそのなんていっていいか…かなり不躾な質問でしたのに…」


「確かに、質問の仕方は不躾と言うより不用意でしたね」


あらら…


「でも、前線で銃を握るより貴方にはもっと向いた仕事があるのだ

 …と私の上司との会話の肴に貴方のことを出しておきましょうか」


そういうとヨハンは席を立ち何でも今回の支払いを全てしてくれるとかで

そういう手配をウェイターにし

兄と双子に挨拶をして、退場していった


俺のなかでは言い知れぬ気持ちが湧き立っていく

どうにも、あの男は好きになれないようだ

好き嫌いは言ってられんのだが…な


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