第十七話 戦争までに 後編
静寂が少しの間続き、ジークリットの呻き声がそれを破った
よく見ると血も出ていない、ジークリットが倒れた付近を見ると
黒い粒が転がっている、粒の大きさは銃弾と同じぐらいで
拾って良く見るとそれはタイヤか何かの古いゴムを銃弾の形に削った物だった
器用な真似しやがる、後方が少し焦げているがこのゴムが破裂せず
しっかりジークリットに当たってるあたり、火薬も少なめなんだろう
「新兵に先ずさせてる、痛みの訓練だ」
アーネストはそういうと回転式の拳銃の空薬莢を排莢し
また新たに銃弾を装填し、蹲ってるジークリットの背中にまた全弾撃ち込んだ
「これは馬鹿な指揮官にする警告だ、ふざけた真似したら今度は実弾を使うぞとな」
そうして空になったカートリッジを排莢今度は…
「今度は実弾だ、痛い思いまでさせてなんだがお嬢さん、アンタが首を
突っ込もうとしてるのはこういう理不尽だ、不意に撃たれる
指揮官なんて部下の命を握ってるんだ、殺される覚悟もしてもらわないとな
でどうする?お嬢さま続けるかい?」
拳銃を弄びながらジークリットの方をじっと見ている
続けるか?と聞いているのはのはこの歓迎会のことだろうな
まぁ部下の命云々はアーネストの逆鱗ともいえる部分で
こんな少女の馬鹿な考えに対し、怒っているんだろう…
「大人しく帰れ、あんたの作戦もあんたもここには必要…」
そう言い切ろうとすると言葉の途中でジークリットが立ち上がった
腹部、背面部あわせてゴム性の模擬弾とはいえ12発も受けてうめき声程度な上
立ち上がるとは…根性なるなジークリット
「確かに、この痛みは初めての経験ですわ軍曹…ですがこんな痛みぐらいで
私尻尾を巻いて逃げるとアーネスト軍曹、貴方が思っていたとは…」
そういうとジークリットはヨロヨロと近づきアーネストの拳銃を彼の手ごと握り
銃口を自分の眉間に押し当てる、怒りに我を忘れているようにも見えるな
その覚悟というにはヤケッパチな態度に対しアーネストに動揺はない
「何のつもりだ?」
もっともな質問だな
「私は、確かに世間知らずかもしれないけど、死ぬことを覚悟せずここに来たという
貴方のその“侮辱”は!許すわけにはいかないわ!」
やっぱ怒ってるようだな…だがこのままだと死ぬぞ…どうするよアーネスト
意地になって引き金引くか?それとも…
「フ…フハハハハハ!たいした肝っ玉だ謝るよアンタ…いや
“指揮官殿”を侮辱したことに…みんなもそれでいいな
ここまで気合を見せてもらったんだ、文句はないだろう…それに
もしあったら、その時の“覚悟”はできてんだろ指揮官殿?」
「無論ですわ」
うーんジークリットが何とか受け入れられたようでよかったよかった
下手に俺が口出すわけにもいかんかったしな…
「にしても片足よ」
「何だ?」
『パン!』
うげぇ!こいつ撃ちやがった!!
「いたたたたた!痛い!!ぎゃー!いたた」
「ははは!これが正しい反応だってのに、指揮官殿はたいしたうぶっ!!」
「アーネスト・グリアムス軍曹!!貴様少尉に何したかわかってるのか!!」
「いきなり殴ることたぁないでしょうに、何ってこの…あ…」
「上官に実弾を打ち込む馬鹿がどこにいるか!現場の共同意識は尊重するが
こういう規律がが緩んどる所は徹底して直すからな!覚えてろ!!
少尉ぃぃ~~~~~~死なないでぇぇぇ~~~~~~~~~~!!!」
「あーあいっちゃったよ、トロイも大げさだなぁ」
「えっと軍曹…あの指揮官さんってヴォルフガング・ジークリットって言って
本当は男なんですよね…そうは見えないけど」
「あぁ、ジークリットっていやぁ、先祖代々筋金入りの軍人家系で
奴さんの親父さんには一応俺面識あるんだが…確か長男がそんな名前だったな
でもあの親父さんは、息子に女装なんてさせるような男でもなかったんだがなぁ」
「あー…じゃあなんでその“彼”は女のフリして来たんでしょうね?」
「知らんよ、片足…どっちもか、爺さんか少尉の趣味じゃない?
どっちも歪んだ性癖もってそうだし、あの顔立ちなら女だって言われたら
素性知らない人間なら絶対信用するだろうからな、思惑がわからんが…
まぁ俺は爺さんの歪んだ劣情だと睨んでる」
「ははは!なるほど~…どうしよう…」
「どうしたの?」
「軍曹…俺もしかしたら…性癖歪んでるかも…」
「…うーん…実は俺もそうかもしれないような気がしてきた…」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
泣き叫ぶジークリットに連れられて医務室まできた、あって良かった医務室
なけりゃその場で…だもんな恐ろしいが…
「こりゃ、ゴム弾だ」
いきなり撃たれてびっくりして確り見てなかったがこりゃゴム弾だ
実弾とか言っといてあの野郎…全く人騒がせな奴だなぁ、本気で痛かったわ…
「ゴ…ム弾?」
その言葉を聞くとジークリットは腰をぬかして俺が寝かされているベッドの横で
へたり込む…俺もそうだが、ジークリットもそう思ってたからなこれくらいなるか
だが確かに…
「アーネストの言うとおりだな」
「何がです?」
アーネストの名前で少し不機嫌になる
「こんな痛いの12発もうけて、ジークリットは耐えてその上
自ら銃口を眉間に当てるなんて事やったんだ、大した肝っ玉だよお前さん」
その褒め言葉ともいえないような褒め言葉にジークリットは顔を赤らめてる
「そ、そんな事言ったって何も出ませんよ少尉!ぃちちちち…」
「痛むのか?って当然か…どれ」
そう言うと俺は起き上がってベットから降り、替わりにへたり込んだジークリットを
抱きかかえベッドに寝かせた
「本当ならお前さんがこっちなんだよな」
寝かせて、治療っといっても冷やす程度しか出来んだろうがそこある重大な事に
トロイハ気ガツキマシタ
「…すまんが、自分でこいつを患部に当てといてくれ」
そういって冷水で冷やしたタオルを渡して去ろうとすが
そんな俺にジークリットは俺の手を掴んで離さず、ささやくような声で言う
「少尉…命令です…わ…私の治療をしなさい…お腹と…太ももと…背中…
その冷たい水で濡らした…タオルで冷やしなさい…命令ですよ少尉…」
「ヴォルフ、君は!」
「ずるいです、こんな時だけ名前で呼ぶなんて…貴方が“女”になれって
言ったん出すよ…責任は取るべきです…」
責任?馬鹿なこと言うなそれでお前が本当に女だったら…あーそれならセーフ
俺は歪んでないがもし奴の言うとおり“男”だったら…嗚呼だめトロイ頭が…
頭が変になっちゃーう!!
「それに…トロイ少尉…ずっと見たがってたものも見てもいいですよ?」
「ずっと?見たい?何を?」
「ボクのオチン……」
…チンッ!ってこのアホー!馬鹿!何を言ってるんだ!いや確認の為に見たいとは
言いましたが何をへんな雰囲気出して言ってるんだ、でもこれでこいつが男って
言質が取れたって事か?いやいや馬鹿な話があるかそれで俺は大事な物…
大事な物ってなんだ、戦火の拡大に支障はないし、“奴”には言う必要はないし
大切な……大切な……………クレマン………………君…?
「失礼いたします少尉殿!指揮官殿!!、グリアムス軍曹が少尉に至急来てくれと!
それと指揮官殿の治療は“性癖が歪んでない”自分にお任せください!!」
今なんて言った?まぁ兎に角ここを離れることが出来るようで良かった
恐らくは衛生兵だろう彼にジークリットの治療は任せて俺は医務室を後にした
「離せ!!命令だぞ!!少尉!!少尉!!!!」
「大丈夫!自分性癖歪んでないっすから!」
「なんだそれ!!」
というやり取りが聞こえたが…俺は振り返ることなくアーネストの所に向った
少し兵士たちに聞いて回りたどり着いたのは射撃場であった
そこにはまだ10代半ばっぽい新兵とアーネストがいた
「指揮官殿はどうだった、少尉?」
ニヤニヤして気持ち悪いおっさんだなぁこいつ…
「元気そうだったよ、それで?なんの用だ?軍曹?」
あまりあの事は突っつかれたくない
「いや何、今回の作戦に使うおもちゃが届いてたそうだし一緒にみるかなぁって」
あー俺と一緒に来たあれか
「あー見る見る見せてくれ」
ここに来た時一緒に来た長い荷物、中身はライフルだ
といってもただのライフルじゃない、口径は30mmと大きく元々は
飛行機に搭載するサイズの物だったが今回の作戦にはこれが必要だと
スタンバックが指名しこの口径に合うライフルを作らせたのだ
現在も制作しているがその第一号が今ここにあるだ
「これが爺さんが作らせたって言うライフルか…今まで持ったどんな銃より
でかいじゃねぇか、片足よ…」
アーネストはそういうと箱から銃を取り出し構える
形としては通常のライフルに変形型のピストルグリップを着けている
「この銃、普通のライフルと違って拳銃のグリップが着いてるんだな
この銃の重さだとベルトを引っ掛けて腰溜め撃ちが限界だな」
30mmともなるとそうだろうそれにこの銃は個人兵装としての欠陥がある
「それに一度構えたら、再装填するのが難しいな」
大型で重量がある為、箱型弾倉ではなく弾をボルトに引っ掛け装填する仕組みで
ライフルと呼んでいるが構造はほぼ砲といってもいいだろうなので一人だと
一度降ろして排莢し新しい弾を装填しなければならない、非常に手間がかかる
「アーネスト、その為のツーマンセル(二人一組)だ」
そういうと、一緒にいた二等兵に声をかける
「君…名前は?」
「は!自分はダミアン・バイガル一等兵です」
あ一等兵かこれは失礼…この若さで…軍隊の感覚は解らんが
二等兵じゃないのは驚いたな
「よしバイガル一等兵、軍曹の後ろで弾のリロードしてくれ」
そう指示を出すと、バイカルはアーネストの後ろで慣れない手つきで
弾をリロードする
「じゃ、次は其のことを知らせる為、銃の後ろから少しずれてから
軍曹の背中を叩いてくれ」
指示通り、バイカルは銃の直線上からずれてアーネストの背中を叩く
「軍曹撃て」
その直後、派手な轟音が響く、その銃声は完全に個人兵装の物では考えられない音で
銃声に慣れているはずの、アーネストや俺でさえ少し肝を冷やした
「まだ耳がキーンってしやがる」
アーネストは悪態をついて持ってた銃を降ろした
「現在の兵器の都合まさか前方装填式の銃を使うわけにもいかんからな
今の手順をしっかり叩き込んで、本番は横列に並んで
もっと効率よく速射してもらう、その制圧射撃が味方を引き上げる為の
作戦の一つというわけだが何か聞きたいことは?」
銃を降ろしたアーネストに質問を投げると、その返答は嵐の様に返ってきた
「言いたい事は解るが…まぁあの“指揮官”を信じてみろ」
「無能なら?」
「さっきいった言葉を実行すればいいだろう」
その返事にそうだったなとアーネストは肩をすくめて笑ってしまう
「そういえば一等兵が喋っていないが…」
バイカルのことに気が付き少し探してみると、気絶して倒れていた
やはり相当の堪える“音”のようだ
「訓練は必要だな…だがこれを使うと“面白いことが出来る”のは確かだぜ」
俺は気絶してるバイカルを介抱するアーネストに的を観るよう促す
アーネストは撃った弾がどうなったか見るとニヤリと笑った
撃った弾は的の下の方は土を山盛りしているのだが、弾はそこに当たったようだが
そこらへんが吹き飛んで凹んでいた、口径がデカイとってもここまで威力があるとは
相手が軽装甲程度なら貫徹する威力だろう…それを
横列に並んだ兵士が速射して制圧…馬鹿げた作戦だが
問題点をクリアしたら面白そうだ、アーネストもそこのところを理解したらしい
「んで?少尉…あんたの口からも聞きたい…あのジークリットって奴は
信じていいんだな?」
最終確認だ、横列で行進という狂気の沙汰を部下に行わせる以上当然の疑問だ
今回の初顔合わせは結構事前の準備があったし、スタンバックの意向もあって
渋々承知したが…確信には至っていないって事だろう、なので
俺が何をするか話してやった、スタンバックに話したように
そしてスタンバックが何をしようとしてるのを…
「…本気で言ってるのか?」
俺の言葉にアーネストは今まで見たことにないぐらい驚いた顔で聞き返す
「本気さ、本気だからあの爺さんも信じたし…
一緒になって東奔西走しているあの貴族だって信じた…
“物”を見ればみんな信じるしかないのさ…そして
この案をジークリットは信じてくれたし、奴の実力を俺は“信じてる”
それだけさ…もう一度言うが、俺は“本気”だ」
俺の顔を見てアーネストは呆れたという態度をとる
「随分変わっちまったなお前、鉞携えるより小奇麗な軍服の方が
似合うようになっちまったな…」
そう言うと少しだけ寂しそうな顔を見せる
「そうでもないさ、今でも鉞を持つのは好きだぜ、今回の作戦だって
俺は別働隊だが、最前線だしな…」
そう答える、2人でつい笑ってしまった、こいつには笑った顔が似合うもんだ
「はははは…分ったよ少尉…お前やお前を信じた奴らを俺も信じよう」
この男のこういうところは好きだ、そしてその信頼に応えたいという気持ちにさせる
「ありがとう」
「よせやい、くすぐったい…」
そうやって軽口を叩きながら談笑しているとバイカルが目を覚ます
何がなんやらって顔をしているのでそれでまた笑ってしまう
前線、いや現場の空気はいいな記憶は飛んでた何かこびりついてる物が俺に
そう思わせる…今のじゃない、もっと前の方の…
「少尉~~~~~~~~~~~~~!!」
その俺の好きな時間は一人の俺の階級を呼ぶ声でガシャンと音を立てて崩れ去る
「…ジークリット」
「あーあの指揮官殿元気そうじゃないか」
「あ!あれが噂の!」
俺達は口々にジークリットに反応する
「少尉!酷いじゃないですか!ぼ…私を置いてきぼりにするなんて!」
偉いむくれようだ、そして俺は懐から懐中時計を出し時間の確認をした
「ジークリット殿、いやいい所に、今現在貴女が行おうとしている戦術の
基本動作をこの2人に教えていた所です、お元気になられたということは
この場は貴女に任せてもよろしいですかな?」
この言葉を言った途端、ジークリットは怪訝な顔になる
「…少尉?何を言っているの?貴方も一緒に!私と!“訓練”する約束でしょ?」
「いえ!小官はこれより首都に行き科学省にいかなければなりませんゆえそれでは」
そういうと、目でアーネストに合図を出すその合図を受けてアーネストは
ジークリットがっちりホールドしてくれた、アーネストに挨拶し
クルムタン前進基地をあとにした…後ろのほうで凄い凄惨なジークリットの
ヒステリックな声が聞こえたが、いや俺は何も聞かなかった…何も
二日後、首都での仕事を済ませ久しぶりに自分の部屋に戻ってきた
帰るとエレーナの姿はなく、どこかに出かけているようだ
テーブルを見ると書置きがあり書置きには日付とこの日には帰ってきますと
書いてあった、実にシンプルな書置きだ日付は今日をさしており
時間までは書いてなかったが特に心配せずそれより疲れを癒したく
シャワーを浴びベッドで横になった、見た目はどうあれ中身は大人だ
そこまで心配しなくてもいいだろう、そう思ってしまったからだ
それから、数分?数時間?分らないが幾分か時間がたったころドアが開く音がした
あいつ等が帰ってきたな、そう思うだけだった
そこからまた意識が飛ぶように寝てしまったみたいで次に気がついたときは
両腕に重たい感覚があった、鼻には風呂上りの良い匂いがする
「「トロイ…まだ寝てるの?」」
その言葉に時間感覚が分らなくなってる俺はエレーナにたずねる
「今何時だ?」
「夜中だよ」
「私達が帰ってきた時でもう夜の7時だったし」
俺が帰ってきたときで昼ぐらいだったか
「そういえば、どこに行ってたんだ?」
ふと外出理由が気になり聞いてみる
「「内緒」」
簡潔な答えが返ってくる
「危ないことしてんじゃないだろうな?」
歳が離れた娘を見ているとつい口うるさく言ってしまう
「「トロイほど危ないことはしてないよ」」
これは一本取られたな、エレーナにもギュンター同様話してたんだったな
こいつ等の素性も知ってしまったわけだし、何よりエレーナって娘
勘違いから拗らせると何しでかすか分らんからな、秘密の共有という奴だ
「そうか」
「「ねぇ、トロイ」」
話題を変えるようにエレーナのほうから話してくる
「「自分から戦争しかけて、死ぬようなバカな真似だけはしないでね」」
耳が痛いな…
「生きてる限りは死ぬのは当然だろう」
そういうとエレーナは顔を俺の胸を挟み込むように沈めて俺に訴えてくる
「「そんな馬鹿な理由で私戦災孤児になんかなりたくないからね…絶対」」
両方からハモった声が俺の耳に痛いことを言ってくる
「気をつけるよ…」
そうとしかいえなかった、戦災孤児か…なんか複雑な気分だな
人の親なんかなったこともないのに
「「それから馬鹿なことといえば」」
まだ何かあるのか?
「「あの男女はもうここから追い出してね」」
意外だな、ご飯が美味しいとか言ってたのに嫌いなのか
「「あの人がいるとここでも“双子のふり”しなきゃいけないでしょ」」
あーそういうことか
「あぁ…そうだな…考えておくよ…」
その日はもう俺は起きる事はなかった…正しく死んだように寝てしまったのだった
数日後、俺とエレーナはブリニストにあるオペラハウスに来ていた
おいおい、ギュンター軍の上級将校への説明に何でこんな所抑えているんだよ
そう思いながら、おめかしした双子を連れて館内に入っていった
そして19:00…ギュンターによる奇術という名の演説が始まる
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