第十五話 手記

 実はこの世界に来てから日記というか手記のような物を取っていたりする

最初は記憶喪失の体裁もあってか、とりあえずまたなった時の為に…

なんて外向けの理由であったが、書いてみると面白いもので

考えを纏める時などに役に立つとわかりそれ以来時間があれば書いていたんだが

ここ最近書けてなかったりする、最後に書いたのはいつだったかな

そうか…3月3日辺りで書くのやめてたのか…

手記を久しぶりに見返して思い返す

この日以来色々と出来事が加速していった

何の意味のなさそうなチラシの一文、これを書いた日以降忙しく書く機会が

中々なかったな、今までは暇すぎたと言うのがあるのだが

まぁ見返しても成果がない時期も逆に書いてなかったり

うろ覚えの死後の世界では覚えてる限りは書いてたりしてるが

体を得てからあの世界の話がアヤフヤになってきて

まるで寝てたころに見た夢のようにも感じられるので、言った言葉に自信がない

俺自身半信半疑だったりする、どれだけ戦争すれば平和になれるかなんて…


ともあれ、あれからもう二ヶ月は経ってるか…もう五月だな

一先ず書いて置かなければいけないことでも考えてみるか

やはり例の爺さんの現役復帰だな、俺としてはそれが一番有難い話題だった

何より何も話してないのに俺の今回考えた作戦に気がついたりと

何かと厄介だったからな、それから…そう思って空いた時間に

手記を見ながら思案している所に例の声がする


「少尉さん!何読んでるの?」


例のクレマン君だ、まぁ彼女が気軽に来るということは

今いるのは例よって例の場所である、初めて彼女と逢って以来

何度となく顔を付き合わせた喫茶ラバンだ


「うーん、まぁ日記みたいな物かな?ほら私は一度記憶無くしてるだろ?だから」

「見せて!!」


いきなり人のもを取り上げようする


「ダーメ!プライバシーの侵害だ!!」

「何よプライバシーって」

「ほらなんか新聞であっただろ、個人の…プライベートの…!」

「私そんな新聞読まないし、解った私のだけ見せて!」


それが一番駄目!


「リューグナー少尉、こんな所にいた!ギュンター卿が探してましたよ!」


いい所にジークリットが来た、あれ以来彼は、ここで任務についており

形式上は俺は彼を補佐する任務についているのだが

まぁ実際は秘密同盟を結んだギュンターの盟友である

俺の補佐を命じられてるのが本当のところだったりする


「いい所に!助けて!クレマン君に私のプライバシーが覗かれちゃう!!」


こう言ったのがいけなかった、ジークリットはその言葉を聞くと


「もしかして少尉の日記ですか!全部は見ませんから!

 ボクのところだけ見せてください!少尉がどう思っているのか気になります!!」


もっと駄目!それは駄目!やめて!!


「あー!!とろい何やってるのそんなところで!!兄様が探してたよ!」

「トロイさん!兄様を困らせてはいけないって何度も…何してるんですか?」


あ、これはアカン奴が来た


「ここはいいから、ギュンターを呼んできて!!」


こう言っておけばギュンターを呼んでくるだろうと思っていたのに


「あれもしかして部屋で見ようとして取り上げられた奴じゃない?」

「そうよゾフィー、トロイさんの日記だったはずよ!」


こっちにくるんじゃない!!

そうやって女子共に囲まれているとやっと本命の男が顔を出してくれた


「君たちは何をやっているんだ?」


アルフレッド・ギュンター卿、今回ばかりは格好いい!言わざるをえない

格好いいギュンターはそのやいのやいのしている場に颯爽と現れ

俺や彼女たちから颯爽と俺の手記を取り上げ

その手記をさっとテーブルの上に置いた


「そんなに読みたかったらどうぞ」


わーいこんなにどうどうと置かれたら…遠慮なく読むに決まってんじゃねーか!!


「ギュンター卿!私はもう卿をカッコいいとわ思わんからな!!」


「何の話?」


俺の心中を知らないギュンターはアホみたいな顔でこっちを見てくる

そして例の如くクレマンがそのテーブルに無造作に置かれた手記に手をかけるが


「あれ?これめくれないし手に取れない!!うー!」


この“うー”の部分だが対面で見てた俺はその本気りきみ顔を見て

噴き出しそうになるほどの破壊力のある不細工な顔になった

それほどまでにりきんでいた“うー”なのだった、クレマン君スッゲー顔だなお前。


「あ!今笑ったでしょ!?」


「笑ってないよ、それよりこれは…」


「あぁ、置く時にさっと魔法をね」


あらやだこのギュンター!いつもより二枚目っぽく見えちゃうじゃない!

そんな俺の心中は置いといて、魔法という言葉に

知ってる者と知らない者で温度差が生じた


「あのー申し訳ないんですが、貴方ってもしかして手品師さんですか?」


何も知らないクレマン君はそういうだろうな

知ってるものはその言葉にどう答えていいか戸惑う


「マジック、今では“手品”として使われるこの言葉も語源は魔法だったりします」


この言葉はなんか魔術史を思い出させるな、モノの起源的なの


「そして手品師も今はマジシャンとも言いますが、これも元は魔術師が語源です」


その突飛な説明にクレマンは毒気が抜かれたような顔をしている

言いたかないが彼女に会って以来初めて見る馬鹿面だ


「失礼、手品師かそうでないかは貴女自身で決めていただきたく思いましてね

 初めまして、私は“マジシャン”のアルフレッド・ギュンターといいます」


この名乗りは聞いたことなかったが、双子の顔がエレーナの表情を滲み出させる辺り

なんとなく察することが出来た、これが彼女の青春の中の彼だったのだと

あの痩せこけた優男でもなく、妄想に固執する男でもなく

マジシャンという言葉が似合う伊達男なんだとね

なんとなくそう思いながら双子の顔を見ていると、ふと目が合う

何か言うかなと思うと二人揃って、目や表情で言い返してくる


『どうだ、格好いいだろ!』


って、もうお互い終わった関係なんだろうがこういう風に自慢できる辺り

この2人は恋愛だけじゃないんだと思わされるな

そう思い、『そうだな』って顔で返してやることにしたら自慢げに鼻をなしていた

はしたないなぁこの娘は全く…あ、久々にでたな“全く”が


「えっと、ギュンターって貴族で男爵かの…って…」


「伯爵ではありますが…所詮名前だけのものですので」


「本当に伯爵さんだったんですか私ったらごめんなさい!」


なんて町娘らしいかわいらしい恥ずかしがり方をするんだ

さっきの気合の入った不っ細工な顔を晒したあとなんだぞ

もっとそれ以前に恥ずかしがることがあるだろうが例の“うー”とか


「いて!」


内心で呆れていたらこの女足を蹴ってきた、しかも生身の方を


「すまないが、彼と少し話があってね少しだがこの少尉を借りていくよ」


そういうとすっとテーブルに置いた手記を手に取り俺に返す、格好いい!!

まぁそれは置いといて何とかこの地獄から解放されたか、ああいうのは好かん…

後ろのほうからは姦しい女共の声が響いていた…待てよ?ジークリット…奴はおと…

まぁいいや、さぁ行くか、それからはギュンターと街を歩く事になった



季節は春といったところだがこの戦争の折そんな風情を楽しむものでもないだろうに

街では、季節の催しものが執り行われている

そんな中を男2人黙々と歩いていた、話すことはあったんだが

俺もギュンターもこの手の催し物が珍しくつい見物しながらの散策になっていたのだ


「催し物と言えば、ギュンター…」


沈黙を破ったのは俺からだった


「首都郊外に開いた遊園地の様子はどんな具合だ?」


気になるのはそこだったまぁ順調でなければここにこいつが来るはずもないが


「私がここに発つ前だが…首相の家族もな…来てたぞ…例の目玉に乗りにな」


例の目玉、それは俺のアイデアの…


「ローラーコースターに乗ったのか?」


ローラーコースター…大体の知識は飛んでたんのだが基礎教養より遊具を覚えている

そんなポンコツな俺の頭が役に立った例の一つだろう


「あぁ、私が出資したのもあったが元々が盛況だったのもあってか

 結構な著名人が乗ってくれたし、そして」


ギュンターはカバンから封筒を出した中身は名前の羅列

最上部には搭乗者リストとある


「トロイこれだけ揃えば十分だ、面白い催し物で新聞も囃し立ててる」


端から聞けばただ遊園地がの目玉が大当たりなだけだ

真意をしりゃぞっとする作戦の前準備なんだがな…


「私…いや我々の計画は動くことが出来るぞ」


ギュンターはそう俺の顔を覗き込み語気を強く語りかける

この高揚感、俺にもわかる…が


「あとは地上の方の囮部隊の方なんだがな…」


この言葉を出した途端、ギュンターは女の前だと絶対しない渋い顔をした


「…彼か…」


「そうジークリットだ、まぁ発案はやつだしやりたい気持ちは解らんでもないが…

 実力があれば現場は何とか押さえこめれるが最悪指揮官は死ぬかも知れんからな」


「戦場を経験したこともない奴にやらせたくはないか…」


「地上部隊に関しては俺の方で何とかするさ、あとは上層部を説得する方だが」


その言葉にギュンターはさっきの渋い顔を止めにっこりと笑い


「こっちは一切の不安はないよ、“完璧”に彼らにウンと言わせて見せるさ」


完璧…普通なら絶対なんだが、恐らく手品師的な意味合いでも含んでるんだろうな

この男も随分とかわったもんだ…いや“生き返った”と言うべきか

何もかもが楽しそうにしている、このギュンターのかわりようを見て

ヨハンがギュンターに「魔法があるとしたら君がかつての様に生き返ったことだ」

といったそうだ、その感想は的を射ていると思う

かわったんじゃない、蘇ったか…


「そういえば大きな会場を借りたいからこっちに下見に来たんだったよな」


今回のギュンターの遠征の目的を思い出す


「そうだよ、先に来ていたジークリットめぼしい所を調べてくれていたからね

 そこらへんはスムーズに済んだよ、それで会場も決めて後は君と夕食と…

 と思ったが、華があるほうがいいな彼女らも呼ぶとしようか」


彼女ら…あの姦しい連中か…可哀想に

こいつ、あいつ等が酒が入ると悪魔になるの知らなかったな…

そうだな、この男に身をもって思い知らせるのも悪くないか


「…それはそうとギュンターお前さんのその演説だが俺は見れないのか?」


今夜の悪夢より未来の話がしたい


「演説と言うか説明会は一応上級将校がメインだろうからな

 悪いがトロイ、君は下のフロアではなく二階席で見ててくれ」


二階席あるところ借りるつもりこいつ…一体何考えてるんやら…


「まぁ仕方ないさ、表立っては全てお前の企てだからな文句は言わんさ…」


そういうと、ギュンターはことさら満面の笑みを浮かべる


「何だよその顔は」


「いやぁ、すまないどうしても顔に出るタイプでね…この性格の所為で

 エレーナのサプライズパーティーは全て失敗終わったんだが…

 今回はびっくりさせることが出来そうだ、そうだ君のほかにあの双子も…

 そう双子とも一緒に来るといい、二階には人は来ないから君たちだけの

 特等席で私の“マジック”見ててくれ」


説明会じゃなかったのかよ…そうだなエレーナにも見せてやりたいわな


「何するか知らんがわかったよ楽しみにしておくさ」


そういうと、そこからは作戦の話はいったん切り上げ今夜の夕食の話になった

出来ればクローズドなところで周りを気にせず食事を楽しみたいのだそうだ

いいぞギュンターその調子で自ら罠に嵌っていってくれ


そして夕食の時…結構お高いレストランの個室を借りて

カフェにいた姦しい連中を招いた、もちろんクレマンもいる

しかもして来いなんて一言も言ってないのに皆おめかししてるんだもん女って…

ジークリットだが今回は凄く男っぽい格好をしていた

まぁ普段が性別つかずだからここぞとばかりにびしっと決めたんだろうが…

似合ってなかったなぁ…まぁそれはさて置き

個室という事もあり恥も外聞もなくあけっぴろになるこの悪魔空間

俺もう十分なほど思い知らされたので出口付近の席に座り

何も知らないそういう意味で“初めて”ギュンターを置くに座らせた

そして酒が運ばれてきてそろそろって時に

そう深酒が始まるほんのちょっと前の明るい雰囲気がある内に自然に席を外し

そのまま外にでた!!!

うーん!いい気持ちだギュンターも可愛い女の子の絡み酒を味わえて幸せだろう!

まぁ皆酒が入ってるとはいえ伯爵の爵位を持ってる人に酷いことしないだろうしな

そう思いギュンターをあの場に残してきたのだが…


翌日になるとギュンターがオネェ言葉でずっと俺を列車のホームでなじってた

見送りの場には何故かジークリットだけ欠席で

見送りにきた三人も物凄く気まずそうにしていた

何があったのか察したくなかったが…察してしまった俺はギュンターに心の中で

謝ることにした、『ごめんねでもオネェ言葉は次回来るときまでには直しててね』と


もう五月…あと一ヶ月後には作戦開始になる…“奴”もどこかで見てるだろう

ヘクサォかもしくはヴィージマかそれともどこか違う国か…

この世界のどこかにいるんだ…お前の火の片鱗はみささせてもらった

今度は俺の番だな…

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