第十四話 1904年3月3日

 1904年3月3日

色々と合った諸準備がある程度形になろうとしていたころ

男か女といえば確実に女といわれるであろうジークリットはぷりぷり怒っていた


「少尉!軍人って人種は好きになれません!!」


このように命令文書をもって基地に行った後からそれ以来この調子だ

一応基地指令の手前では笑顔は崩さなかったが

基地を離れた途端に怒りを露にするんだが、いかんせん

可愛い怒り方なものだから手に余る

帰りのこの路面電車の中でもその子どもが機嫌を損ねたような

愛らしい怒り方は相変わらずで周りから変な目で見られてる…


「皆が皆、君を女扱いしたことなら言ってははなんだがいつものことじゃないか」


「違います!!」


何だ違うのか?


「だったら…!アレか!」

「そうアレです!!」




“アレ”とは、今回貴族の名を使ってこの魔術機関という名の小さな部署は

戦術諜報に関しての技術協力という名目で加わることになっていた

実際我が軍は変な突出の所為で兵站を伸ばしすぎ細い道を頼りに

ギリギリ生かされているようなものである

向こうの戦略としてはこの小出し戦法をさせ続けこちらの一番大事な“人員”を

削り取っていこうという算段だ

この基地より向こうは森が広がっていて敵の地上兵力の進行を遅らせることは

出来るが、同時に此方の輸送手段も限られていら

その中で魔術なんて胡散臭い物に頼ってでも敵の情報集めたいそんな中

ジークリットは基地指令以下、将校連中の前で


「私、アドルフ・ジークリットの長男、ヴォルフガング・ジークリットに

 この戦況を打開する妙案があります!!」


なんて言い出した訳で、でも身振り手振りが完全に男装した女の子のソレで

別に悪印象でもなかったし、あれ自体は緊張を解くいい演説だったと思うんだが




「でもまぁ、なんだっけ?戦列歩兵を使っては戦術的にはありえないが

 その時代を生きたお歴々もいて妙に関心してたりして、魔術師に対する

 警戒感みたいなものは取れてよかったと思うぞ」


そう何とかたしなめて見る


「重装甲戦列歩兵隊ですぅ~!!」


なんちゅう声を出すんだ


「解った解った、重装甲な!」


「はい…ぐすん…少尉はこの案駄目だと思いますか?、重装甲…」


出来れば俺としてはそれよりこっちのギュンターの書類の方を吟味したいのだが…


「そうだな、次の駅で降りてどこかの店でちゃんと聞かせてもらおうかな

 基地ではその話で出来ず仕舞いだったもんな」


正直ジークリットがこのままでも困るし、まぁ聞くだけならタダだしな


「はい!!」



そういう訳で俺とジークリットは路面電車を下車し

そこから歩いてすぐのところにあるレストランに入った

地方都市のレストランといっても中々いい所で俺の財布は少し心配になったが…

イヤイヤ!あいつが男なら割り勘だだ割り勘!何考えてるんだ俺は

中に入り席に案内される、俺はコーヒーを頼み、ジークリットは…


「ボクはですね、ダージリンティーを」


ほう紅茶派か、飲み物なので間もなくして頼んだものがとどく

注文をしたものの先ずは話させてくれと言わんばかりに

手持ちの資料を持ち出しテーブルの上に置いてくる


「これが“重装甲戦列歩兵大隊計画”…」


作戦書にはそうデカデカと書かれていた…作戦書と読んでいいのかわからんが

なんか凄いな…これこっち来る前の僅かな時間に作ってたんだぁ…


「どうです?」


「まだ表紙見ただけだから…」


メッチャクチャ気にしてるなぁ、まぁ読んでみるか…


「どうです?」


「…………」


「少尉?」


「…………」


「ねぇ!少尉どうなんです!?ボクの重装甲戦列歩兵!」


「…………」


「少尉少尉!少尉ぃ~~」


「すまない少し静かにしていてくれないか」


「…はい」


「ジークリット君」


「は、はい」


「すまんが、これ少し借りていくぞ、あとなんだこの気合の入った表紙は

 特に必要ないと思うぞ、ただの書類なんだからそれから君はこのまま

 官舎に戻って双子に私の帰りが遅くなることを伝えて先に夕飯を食べててくれ」


「え!?それボクのなのにどこに持っていくんですかってあー!!」


ジークリットの資料を持ってコーヒー代をテーブルに置くとそのまま店を後にした

遠くでジークリットが何か喋ってるようだったが、今はれより…




数十分後…俺はクレイン・スタンバック退役少将のアパートの前に立っていた

あの爺さんも一応ジークリットの着任の場に居たが

それが終わればさっさと帰ってるだろうから


「開いてるぞ、さっさと入れ馬鹿が…」


どうやら俺がくる事はわかってたようだな


「失礼します」


中に入ると何時ものお茶はなく窓際の席に爺さんが座っていた

見るとテーブルには昨日忘れていった兵棋セットがそのままあった

というよりあれこれ動かして色々メモに走り書きをしている

この爺さん…


「…そのご大層なのは?」


目敏く、ジークリットの書類に気がつく…というか

あの場に居たんだがなこの爺さんも、まぁその場ではつまんなそうにしてたから

ジークリットの目には物凄く悪印象だっただろうがこの爺さん

今の近代化戦争に対して嫌になった男なだけにもしかしたら

少しは興味はあるだろうと思ったが


「あぁ、例のジークリットという魔術師の…」


「あの小娘のか…」


!?


「あーいや…男ですよ、彼自身はっきり長男って言ってたし…あ!」


そう言い返すと無言で俺の手から書類を取り上げ

内容を読み出す、表紙にはあまりリアクションはせず

あの言っちゃ悪いが馬鹿らしい内容を読みふけっていた


「何だこれは?」


もう読み終わったのか


「重装甲戦列歩兵の…」


「あの小娘はこんなのをあの場でこれを見せてこの内容を喋ろうとしたのか?」


「まぁ、そんなところです、でもこの案面白いでしょ?」


「お前正気で言ってるのか?」


「ええ、すこぶる正気です」


そういうと、懐からギュンターの書類を出した


「これだけだとタダの夢見がちな子どもの妄言ですが、ある二つの要素を

 加えると…面白いことがおこせますよ」


俺の台詞に少し反応する


「話してみろ…」


そういうとスタンバックは静かに俺の言葉を待つ


「ひとつは、この書類私もここに来る道中に軽く確認しただけですが…

 条件としては意味を理解してる者であれば、ですが

 そしてもうひとつは、少将自らが仰られた大道芸の話です

 これの意味してるモノがわかればこの馬鹿げたアイデアも面白くなるでしょう」


「なるほどな、じゃそれを見せてみろ」


そうくるだろう…が


「今はお見せすることは出来ません」


「何故だ?」


少し怒ってるようにも見えるが…


「貴方はまだ退役してると思い込んだままです、現役復帰なされたら

 御見せも出来ますが…」


「なんだと?」


「昨日、私に仰った言葉に対しお返しというわけではありませんが

 もう少しご自身に正直になられてもいいでしょう」


「それは、どういう意味だ?」


「いえ、少将が私をよく観てるように、私もそこそこ観てるつもりです

 ですからそう思っただけです、そうですね一旦おいとまします」


「なんだと?」


「明日もう一度お返事を伺わせていただきます」


そういうと爺さんは黙り込む

俺もそれを見て部屋を後にする

昨日のお返しというわけでもないが、あそこまで感づいたなら

この戦争に対し興味を持ってもいいと思うんだが…

あの歳まで生きてると色々あるんだろうが…

考えても仕方がないことは放っておいて、官舎に帰るか

…ジークリットまだ怒ってるかな?



・・・・・・・


・・・・・・


・・・・・


・・・・


・・・


・・





「あの、嫌味なおじいさんに渡してきたー!!」


怒っていたし、更に火に油を注いだようだった


「落ち着いて、ジークリットさん…わ!」


包丁が飛んでくる、容赦しないなこのお…とこ


「少尉だけでもボクの案をみて凄いね!とか言って欲しかったのに

 よりにもよって、ずっとボクを睨んでたおじいさんに渡すなんて!!」


「落ち着いて、話を聞くんだ!!」


「「泣ーかした♪泣ーかした♪トロイがお兄ちゃんを泣ーかした♪」」


「びぇえええええええええええええん!!!!」


この双子!!


「ねぇ、ゾフィーこれ何かしら?」

「何々サブリナ?」


俺がジークリットに手を焼いてる隙に俺のカバンからギュンターの書類を見つける

まて!?お前ら役割が逆になってないか!?


「あ!それはギュンター卿からお預かりした秘密書類です!」


ジークリットそんな事いうな!っていうかさっきまで泣いてたのは何だ嘘泣きか!!


「「へぇ~それは気になるなぁ…秘密書類かぁ」」

「ですよね、ずっと見たかったんですがボクも一応我慢してましたが

 少尉がボクの秘密を漏らした以上はこれはボクにも見る権利がありますよ!」


そう勝手に正当化したり、好奇心だったりで勝手に書類の封筒を開け中身を見る


「なんですこれ?」


「「これって…」」


驚くのは当然だな、何せ中に入ってるのは


「何もただの遊園地のチラシだよ」


そうその意味が解る者だけ通じるただの遊園地のチラシだ

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