第九話 プレゼンテーション
ジークリットからの授業を終え
所用を済ませて帰ってきたギュンターの案内で
小さな会議室に通された
そこには6名の研究者たちが先に席についていた
今回の名目であるが発起人はあくまでギュンターで
俺はそのプレゼンを受けるという形となったという形だ
つまり、本来とは逆の形だ
ジークリットもギュンターの発案を理解し安くする為の要員
そういう説明をされてきた
これは俺の発案で今朝の食事のときにギュンターに確認を取ったものだった
彼には自分の立場と出自考えての事だつまり俺の方からこんな事持ちかけた
表立っては、軍人からこんな話すると説明が面倒だし
前線の元二等兵でお飾りで昇級したようなものが言うよりよっぽど
説得力があると、ギュンターは少しいやそうな顔をしていたが
何とか了承してくれた、俺が専門家を前に熱弁するのは一回で十分だし
ジークリットから受けた授業を聞いた限りは俺は部外者で
“俺”が説得される方向性でみんなを協力させるというなんとも不思議な
形をとることにした
ギュンターの初見の印象は大層頼りない顔をした優男であったが
俺の話を聞いてからは目つきが変わり
ここに来てから更にいい目になってるな…
俺の姿を見ると研究…いや魔術師だろう彼らは明らかに緊張をしていた
ここで俺のなかで一つわかったことがあった
俺が講義を受けてる間、彼らに今回の計画を説明してたんだろう
何が別件を失念してだ、全く
こうして俺に対して俺が発案した計画のプレゼンがはじまった
正直6人全ての名前と顔を覚えきることは出来なかったが
思いがけない自体が起きた、昨日の今日で俺の杜撰な計画内容が
ブラッシュアップされていたのだ、明らかに専門家の意見が入ってるんだろう
魔術面と言う意味では付け焼刃ではあるが
ジークリットの講義が十分役に立った
彼らが言ってることはちんぷんかんぷんであったが
言いたい事は十二分に伝わった
ギュンターめ何がオチこぼれだ全く、あとで一言いってやらなければ
一通りのプレゼンが終わった、何よりあくまで浮いた木の板を見て思いついた
計画とも言えないアイデアに対して、かなり考え込まれていた
だがこれでもまだ足らないあくまでこれは実用が可能かどうかの話で
肝心な“戦術面”が抜け落ちてる正直俺はそっちのセンスが無い
だからといって引っ込むつもりも無いが
出来ないなら出来る者を探すだけだ、しかしことは慎重に
「…これは…実に面白いアイデアですよギュンター卿そして皆さん
今回は偶然からこの方に出会ってこのような場に招待されましたが
あなた方が科学に負けないユニークにとんだアイデアをお持ちだということは
十二分に伝わりました…ただ」
この言葉のあとに恐ろしく大きな息を呑む音がした
名前はジークリットぐらいしか知らないがこの連中はどうも
ギュンターに肩入れしているのだろう、却下されるんじゃないか思ってるのかな?
「ただ…実行するにしてもテストが必要でしょう、実際できるということは
そこにいる、ジークリット“女史”による実演を見せてもらい技術面では
貴方方が手練れと言うのはわかりましたが、規模が違いますからね
そこらへんの実証試験を今後お願いします、そしてこの計画には
新たな戦術が必要になってくるでしょうから、私一人では判断出来ないでしょうし
一度私が所属している前線駐屯基地に持ち帰り上官と相談してきます」
「前線基地?このまま本営に行くんじゃないのか?」
六人の一人が相声をあげる、まぁ当然だろうなそうなるのも
やっぱり俺は思いついたことなんていったら余計不安になって怒るだろうな
「ええ、前線です今小競り合いをしてるのはここヴェルムクリントでは無く
ブリニストなので、それにこれはあくまで戦術案以上ではないでしょう
今はここにいれば平和に見えますがあくまで戦争状態です
何よりこれは、馬鹿げたものですがもし実現したら…前線兵士が助かる
中央に出しても却下するでしょう、現実味がないって
ですが、前線のものなら私も掛け合って実現の可能性がほんのチョットでも
出て来ます、そちらの方がいいと…思いませんか?」
俺の言葉にみんな一応の納得をしてくれたみたいだ
まさかそんなところに出すわけにも行かんし、何より俺のあずかり知らない所で
俺の考えた事が好き勝手されるのも気に入らんしな
「貴方方はみなギュンター卿を尊敬しているのですね」
一言、そう付け加えたまぁ気になったことはつい口に出してしまうという悪い癖だ
だがその言葉を聞き何か堰を切ったように濁流が如く
皆がギュンターの話をしだした、話には聞いていたが
エレーナが死ぬまでは結構頑張ってたそうだがなかなか振るわなかったらしい
ジークリットとか、男の中で明らかな女声だから良く聞こえる
お前の話は十分聞いたよ!!
「諸君落ち着きたまえ、何を言っているんだ今回は私を彼に売り込むことではないだろう?」
少し声を張ってギュンターがその場を収める、一応ここの偉いさんだけはあるな
だがそんな中でも一人ジークリットだけがなんか粘って言おうとして
みんなに口を押さえられる、馬鹿な奴だなぁ
そんな調子で今回のプレゼンテーションは終了した
やっと一段落だな、と一息ついたその時だった
ギュンターから先に帰っていてくれとの通達が来た
何でも、あの熱心的なギュンターを信奉してる連中を説教するのだとか
そのあとに“用事”がまたあるらしく先に夕飯も済ましていてくれだった
そのときの顔は何か、引っかかるような気がしてならなかった
ギュンター邸に戻り、例の
「よう、変型双子型成人子ども人間元気そうじゃないか」
に会うまでは小さな引っ掛かりだったが
「「トロイ少尉…彼はギュンターは…一緒じゃなかったの?」」
この、悪口を気に留めないほどの深刻な感じ何があった?
「…ああ…何でも用事があるからとかで…先に…」
その言葉を聞いてエレーナは重たい口を開いた
「「彼、きっとヨハンの所に行ったわ、そして貴方が考えたアイデア
全部ヨハンに教えてるわきっと…」」
「何を根拠に…」
「「だって、ヨハンの目覚しい功績は殆どがギュンターの構想してた事ですもの
彼は、脅されてるんですきっと、そうやって」」
そういうと済まなそうな、顔をしてエレーナは俯いたままだ
俺はただその言葉の真意を考えてしまった
この女が原因で脅されている?
どれだけ考えても考えがまとまらなかった
だが考えがまとまらない代わりにひとつ
思いついたことがある、昨夜と同じことになるが
あの男と腹を割って話してみることにしよう
結論を出すのはそれからでも…遅くはないか
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