第二話 この寂れた街角で…
俺は戦場を離れ、“今”の俺の祖国にまで帰ってきているいわゆる傷痍兵としてだ。
三ヶ月前、戦場で目を覚ました俺は危うく死に掛けるところだった。
荒行事とは言え、まさか戦場で転がってる死体に入るとは夢にも思わなかった。
完全に絶命免れない状況で俺がまだ生きてるかといえば、この体のおかげだ。
このトロイ・リューグナーという男の体が丈夫だったおかげで命拾いしたって所だ。
まぁ砲弾かなんかで片足は失っていたので五体満足って訳にはいかなくなったが。
一番の失態と言うべきか…まぁ半分蘇生直後なんで仕方ないのかも知れんがその時の事はろくすっぽ覚えてなかったりする。
何もなく助かったっていうのならそれでもかまわないが後日、搬送された後方の軍病院で俺は上官からのお褒めの言葉とそこから更に上官、将軍だと思うがお偉いさんから勲章やらを頂きさらには、従軍記者からのインタビューを受けた。
だが当の俺はといえば、何一つ覚えてないので応答しようがなくただ困惑するだけだった。
実際俺が一体何をした…というか、した事にされたのかは、新聞で知ることが出来た
新聞を読むとでかでかと俺の名前と顔が載っており「同胞を救った片足の英雄」として紹介されている。
どうも俺はあの後、9人もの味方を助けて回ってたらしい。
この手の英雄譚は明らかに戦争に対して厭戦気分を回避する為もある捏造だとも言え
るが、まぁコレは俺の役にも立つのでこの当人すら覚えがない英雄譚は上手に使わせ
てもらうとしよう。
俺の第二の祖国とも言えるここ“フェルキア”は俺の眼から見たら…というか記憶が
ないんだがそんな俺から見てって話だが、実に欧州っぽい…ざっくりした物言いだが
俺自身同様この体も教養が足らんみたいでイマイチな感想しか出てこない。
なので今の俺は英雄兼傷痍軍人兼後方勤務で、講演の間に本を読み教養をつける為、
今はここ国境付近の都市ブリニストの街角にある喫茶店ラバンのテラスにて少ない時
間を使って読書にいそしんでいる。
文字と言葉に関してだが、前世の記憶がほぼ吹き飛んでるのがよかったのか、文字も
言葉も理解できるしネイティブに喋る事が出来る。
歴史は知ると面白い、特に言葉に関してだがこの世界ではどうも言葉が統一されてお
り、多くの他民族が居るはずなのに喋られている言葉は一言語だけのようだ。
この辺りは気になるところではあるが、先ずは近代と社会情勢から調べるべきだろうな、あとは知らない言葉も調べなければならない。
「少尉さん、また読書ですか?」
そんな、自身の置かれた状況を整理していると一人の女性が声をかけてきた。
声の主の名は“ヴィルマ・クレマン”恐らく“ここ”に来て初めての知人だろう。
「ああ…まだまだ読むものが多くてね、クレマンさんは一服しにきたのかい?」
彼女とはここ喫茶店ラバンで初めてあった、話しかけたのは彼女からだった。
その時に階級を聞かれて答えた結果が“少尉さん”だ、名前も言ったが彼女はどうい
う訳か階級を好むようで俺としても階級で呼ばれるのは慣れてなかったが彼女のお陰
で随分なれさせてもらったものだ。
「少尉さん、私はヴィルマでいいわよ。」
「君も私を名前で呼んでくれたらそうするよ。」
この会話はここ最近始まった事だ。
この前だが彼女、ヴィルマを酒場で助けたのがその理由にあたる。
自分の中では何かこう進展があった事だしと思い、名前でいいよと彼女に声をかける
も返答は『少尉さんが私の事を名前で呼んでくれたら』などと言い出すからついつい
熱くなってかこのような会話が挨拶代わりになっていってしまう。
「少尉さんは“軍人”なんでしょ?よくそんなに読めるわね…本」
ヴィルマ彼女の中の軍人像はどうも粗野で乱暴で酒びたりのイメージがあるようだ。
「軍は馬鹿では勤まらんよ、兵を働かせるにはそれなりな教養が問われるのだよ。」
したり顔で言ってしまったが、俺的にはこの世界で知らないことがいっぱいだからで
決して軍人としての素養を高めるためではない…のだが。
「へぇ~大変なのね軍人も。」
ヴィルマは関心したようなしてないようなそんな態度をみせた。
まぁそうだろうな、こんな話きいても女の子は面白くないだろう。
「それは戦争で役に立つ本って事なのよね!」
ヴィルマなりの結論のようだ。
「ま…そんなところだな。」
「歴史の本が戦争に役立つものなんだ…」
そういいながらヴィルマは俺がテーブルで広げてる本を取り上げ見ている。
「まぁそんなところだ。」
「少尉さんなら、戦場の方が似合うのになぁ…」
そうだな、彼女の願望は俺の願望でもある。
“あの夢”がここでも実現した時、彼女…ヴィルマはどんな顔をするんだろうな…。
歴史書を覗き知ったことは、この世界も“火”を欲しているのだ。
何もかもを燃やす、強烈な炎を求めているんだ。
だから“お前”もここに来たんだろう…。
なぁそうだろう?
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