第一話 星空から零れ落ちて

 人はみな死ぬ、それは命を持った者、全てが背負う宿命である。

人以外も含めて…。



俺は暗い道を歩いている、いつからなのかはもう思い出せない。

だがその理由はまだ何とか覚えている俺が死んだからだ。


死んだ為ここにいる、目の前にいる明かりを照らしているへんてこな生き物?の後をついて歩き続けている。

覚えていることは、秘めた思いとここでのルールだ、総てを忘れるまでこの“行軍”は続くということだ。


俺はふと空を見上げる、空という言葉には語弊がある何せ俺自体がどこを歩いているのかも判らない、つまり地面と空という定義もできない、だが自分を軸に歩いているところを地面上を空と思うことにした。

だから見上げるという表現を使うことにした。


そんなわけで見上げるとそこには無数の光が、満天の星々達が瞬いているがアレは星じゃなく、俺と同じ死者の群れだ。

満天の星々を描くかのように無数に無限とも思える数の光が俺の周囲にみえる。

上も下もない、視界に入る全てにその星のような死者の光が見える。


だがアレは星じゃなく俺と同じ死者の群れだ、銀河系を描くかのように無数に無限とも思える光たち、俺の頭上に見える…もちろん下も見てもだ。


俺はこの場所に来て色んなものを順調に忘れていっている、名前、生まれ、人種、国籍、エトセトラエトセトラ…鏡も無いから顔まで忘れてる始末だ。

だが今でも“俺が俺でいられる”理由…それは。


「なぁ…おまえしゃん、まだ全部捨てることは出来んのかね?」


変な生き物が唐突に俺に話しかけてきた、この生き物とはずっと一緒だが口を聞くのこの瞬間が初めてとなる。

最初は俺のほうが話し続けていたのだが、全くの無反応ゆえに俺も諦めていたのだ。


「忘れたさ何もかも、鏡も見てねぇから自分の顔すら忘れたぜ。」


見抜かれてるだろうがはぐらかす、そもそも何で俺の中でコレだけが消えないのか俺にすらわからない。

だが、ひとつ俺のこの心の中から消えないものがある。

まるで最後の灯火のように、俺が俺である事をやめない為の最後の…。


それがあの男の事だ、親友と呼ぶべきだろうあの男の事が頭からこびりついて離れない、この変な生き物にもその事は見抜かれているんだろう。


何せこの生き物俺が何かを忘れていく度に「やっと一つ目か」や「二つ目だな」など俺の記憶が消えていくのを確認していっていたからな。


ある時期を境にその確認作業も途切れ途切れになり、変な生き物も俺も無言であてのないこの行軍を続けていたのだ。


そんな永遠に思える行軍をこの生き物も苦に思ったのか、根を上げて俺に話しかけてきたのだ。


「べつにぃ、根を上げた訳ではないよォ?」


この生き物俺の心が読めるようだ、なるほどなら納得だ。


「ならどうして、俺に話しかけた?」


この今思ってることもみんなこの変な生き物には筒抜けなんだろう、そう思い奇をて

らった質問はやめ、俺はストレートに攻めることにした。


「それはな…」


“それはな”から続くこのへんな生き物の言葉は驚くものだった。


「なんで…アイツがここに…」


あの男だこの変な生き物は、“あの男”を知っているのだあの…。


「まぁ生きている以上死ぬのはしゃーない。」


俺の動揺に対し変な生き物は謎の対応をしてくる。

俺は別に奴の死を悲しんではいない。


「悲しんでないの?それは悲しいなぁ…」


この変な生き物め、またしても俺の心を読みおってからに。


「怒るでない、えーとな後もう少し話したいことがあるのだ。」


この変な生き物は何かとマイペースに話をづつけた、ぬいぐるみの様な輪郭上だと思

うがしゃべり難そうにたどたどしくアイツと会ったこと、そしてアイツどうしたのかを語りだした。


「つまり、アイツはズルして戦乱の世に行ってしまった…そういう訳だな?」


俺は変な生き物の長ったるい話を要約した。


「はい、そうです。」


変な生き物も俺が全てを理解した上での要約だったのを理解したので頷くだけであった。


「まさかあの野郎、あれをやる為に死んでも奔走するとはな…」


俺は心なしか嬉しくなった、にしても解せないのは…。


「許せ、本来ならもうちょっと早く声かけたかったんだがな…。」


変な生き物曰く、アイツが俺のことを話しハンデをつけて欲しいからとの事だ。


「コスイまねを…」


思わず口にしてしまう。


「…ほうほう…」


変な生き物はこっちをジロジロと見てくる。


「なんだ?その目はお前はこっちの頭ん中覗けてもこっちはさっぱりなんだぞ。」


ジロジロと見てくる変な生き物に一言、言ってやった。


「自分の顔だからわからんだろうが、お前さんの目が生き返ったのでつい…」


俺の目…なるほどそういう訳か…死んでもなお“アイツ”は夢を見てた、その言葉に俺の目が反応したというわけか。


「そゆこと。」


こいつは…実にやりにくいな頭の中が読まれるというのは、思考したことに相槌を打たれるとは…。


「だがひとつだけ、お前さんの口から聞かせておくれ、オレはなここに来た人間 に次の人生はどんなものにしたいか、好奇心で聞くことがあるのだが。」


ほほう、なるほどこの変な生き物にも好奇心があるのか、“アイツ”こいつの性格を見抜いて利用したというわけか。


「そうそう、そんでなあの男はお前さんのやり方では、世界を焼いちゃいかねないから…とか言ってたが…お前さん…本当に焼いちゃいたいの?世界?」


……。


「なんで、全部黙るんだい?オレは…」


「少し長くなるがいいか?」


「へ?聞かせてくれるの?いいよ」


変な生き物は俺の言葉を聞くと少し安心した顔をしてその場に腰を下ろした。

歩いててなんだが、座れるんだなここ。


「先ず、奴はここに来てなんて言ってたか、言ってみろ。」


「自分のこの知識とこの“意思”を持って世界を平和にしたい…って言ってました」


「そう、世界平和だそこが肝心要だ。」


「はい。」


「ほとんどが遠い記憶の彼方へと飛んでいってしまったが、俺と“アイツ”はよく世界を平和にするにはどうしたらいいかという話をしていたんだ。」


「はい、そこあの男からもは聞きました。」


「奴は世界を統治する為に、必要なものがあると常に訴えていたそれが“核”だ」


「かく?」


自分の名前を忘れても、ここらの薀蓄を忘れている辺りわれながら度し難いな。


「原子の力だ、超ちっさい粒と粒を分裂させたり、くっつけたりすると巨大な力が得 れるというな。」


「ほんまぁ…」


物凄いウッスい反応だな、こいつは地球上の知的生物でもないからこんなもんか。


「問題はそれを兵器転用した場合だな、軍事バランス一気に崩れる。」


「崩れるとどうなる?」


「既存兵器では到底太刀打ちが出来んのだ、一方だけ持っていると他の国は持ってる国に逆らえない、だからみんな核を持とうとするそれが相互確証破壊と言う奴だなそれが出来るようになったら安定するが、同時に核の存在に怯えなければならん。」


「なるほど、危ないと言うのはわかったよ。」


「ちなみに“アイツ”はお前に具体的にあっちの世界で何をするか伝えたか?」


「えーと、何かこう今ある知識をフルに使って偉くなって統治すればって…」


「腹ん中ではなんて考えてた?」


俺はこの不思議な生き物にわかりきったことを訪ねてしまった。


「いや全く同じ事をかんがえてましたよ?」


やはりな、早くに見抜いて思考を簡素にして出し抜いたか…。


「それで自身は真っ当に平和を実現します、俺は世界を燃やしますと来たもんか…」


「え?オレ騙されたの?」


変な生き物も驚いているようだ、まぁそうだろうな。


「いや正確には、上手く大事な事を言わずに行っただけだ。」


「というと?」


「俺も“アイツ”も同じ穴の狢と言うわけだ、俺の目的は戦争を拡大化していき人間

 を疲弊させその世代より数世代は戦争をしたくなくなるように仕向ける。」


「それが世界を燃やす?」


「そうだ、数世代の戦争はいつか人間を変えるだろう、戦争してるよりもっと違う方

 法をした方がよりよいとな、戦争を起こすにはそれなりの理由がある。」


「理由?」


「簡単な話“腹が減った”これだけでも戦争だ、一人だったらそうはならんがこれが

 国家規模なら?こんな馬鹿なことでも火種になるんだ人間の世は…」


ふと見ると変な生き物はそうなの?って目でこっちを見ている、だがそうなのだだか

らこそ人間と言うのは度し難い。


「戦争に対し嫌悪や嫌気と言うより、卒業と言うべきか、武器より道具を手に取らせたい訳だそれはあくまで自発的な進歩でなければならん、その為に青い星が赤くなるの程度は致し方が無い犠牲の量だと思っている、微々たるものだ。」


「びび…なるほど、であの男は何をする気だ?お前さんが危ないのは理解した。」


「同じだ、統治できるまで人間の量を減らすんだ、一千万以下までな」


「…元は何人なの人間って」


「70億」


俺は変な生き物の質問に間髪入れずに答えた。


「そんな沢山一気に来たら大変だなぁ…」


変な生き物は珍しく暗い表情をした、死んだらここに来るのだから当然か、生者の世界の出来事は対岸の火事だが、これで死者がこちらに殺到したらと考えたんだろう。

自身の仕事に関わる事だからこそのこの表情なのだろう。


「まぁ奴も俺もやることは変わらん、お前に迷惑をかけることはな。」


先ほども述べたように俺と奴は同じ穴の狢だ。


「それでだ、アイツは俺と違い先ほど述べた“核”を使うつもりだろう、しかも人間としての倫理観なんてない奴だ、目的達成の為に人間を間引くだけ間引いて、統治するんだ、そして統治から精神的な規範作りにシフトする。」


「きはん?」


「例えばだ、ご飯を食べるときには“いただきます”っていうんだが…人間のコミュ二ティ間で生まれたものではなく、人間がもつ普遍的なものというべきか……、それをするのが当たり前だと思う気持ち…って感じかな?」


いかんなここら辺は言葉は喋れても知識が追いつかん、少し言葉を濁すように喋ってしまったな。


「まぁはた迷惑な奴だというのは伝わったよ?でもなんでそんなことしたがるんだ?そんなことしなくてもいいんじゃないのか?」


「そんなこと?」


「世界とか燃やしちゃうのとか、きはん?作るために間引いちゃうのとか」


…まぁそうだろうな、だが…


「悲しいことに、したいという意思はあるが思い出せないのだ、理由はな。」


「そうか…でどうする?」


「なにが?どうする?って」


「そりゃお前あれよあの男と同じ場所に落ちたいかって話よ?」


「オチタァイ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


渾身の声を上げた今までの人生をほぼ忘れてしまったが、人生最大の大声だろうと思う絶叫を上げてしまった…恥ずかしい。


「わかった、じゃあお前さんを…」


変な生き物は俺に何かしてくれるのだろう何かを取り出そうともぞもぞしだした。


「何をしてるのだ?変な生き物よ?」


「何って…同じ世界でもどこに落ちたか調べないと…」


俺は変な生き物のモゾモゾを止めた。


「なぜとめる?調べなきゃいけんだろ?」


「どこに落としたかぐらいは憶えてるんだろ?変な生き物よ」


「…はい、憶えてるよ?」


「ならそれだけでよい、生き物よ」


「でも…」


「奴がハンデが欲しいと言ったんだ、なら気前よくくれてやるとしよう!」

 

「そうか…でも凄いギャンブルになっちゃうけどいいの?」


変な生き物は物凄く不安そうに俺を見てくる。


「神はサイを振らない…まぁ誤用だがこの際なんだっていいサイを振ってみるのも悪くはないさ…ギャンブル大いに結構!!俺は人間だからな。」


俺はそういうと生き物に笑顔を見せた、運命の赤い糸とやら信じてみるのも悪くない、今はそう思うだけだ。


「オレはビアへロだ」


不意に生き物が自己紹介を始める。


「ずーっと言いたかったんだが、何で変な生き物なんだ全く…そんなに変か?」


ビアへロは少し怒った様子を見せるが、俺はその形容しがたい顔から出る怒りに対して何も感じれなかった。


「挨拶も自己紹介もしない奴が悪いんだぞ、ビアへロ。」


とクレームを一蹴すると、ビアへロは“そっかぁ”といった顔をしてそれ以上の言及はしなかった。


気を取り直したビアへロがコンと自身の持ってたランプらしきもので、俺の体をコンと人叩きすると俺の体にランプの光移って来て俺の体が発光した。


「これは…」


「命の光ってやつだなお前さんから全部なくなったときこうしてどこかへやるんだが気まぐれで何もなくなってない状態で好きな場所に落としてやる事もある。」


「なるほど…」


「でもいいのかい?お前さん、奴さんほど賢そうじゃないし言っちゃ悪いが結構忘れるだろう?あの男のほうが結構覚えてることが多いんだぜ?」


生き…ビアへロはそのヌイグルミみたいな顔を最大限心配してるって雰囲気にさせて俺に最後の確認を取ってくる。


「それこそ望むところだ俺のこの“意思”があれば十分だ!いいからやってくれ!」


「わかったよお馬鹿さん、だが荒っぽくいくからもしかしたら死に掛けの体に入って生き返ってまた死ぬなんて事なったらゴメンな。」


「そん時はそん時さ!やってくれ!!」 



そこから先はと言うと意識が飛んでしまって語れなくなっていった。

まさか、異世界?かどうか知らないがマンガやアニメみたいな事を俺が出来るとは思わなかったが…


俺自身、世界を左右できるチャンスをこういう形で得るとは思っても見なかったもんだ…。

だが…これからだ…今まで…忘れてもいいぐらい平穏だったであろう人生を終えて…

これから俺の…俺と…奴との…


意識が消え、俺はこの星たちから零れ落ちた。



……















感覚が蘇る…。


生温いどろりとした液体らしきもの…。


体は湿っているのか、濡れているのか…。


異臭がする…。


感覚が蘇る…。


命が蘇る…。


目に光が入る…そこに写る光景は、


バラバラになった人間らしきものの破片、


生温い液体の正体は血と泥だ、中身がむき出しの人体から溢れてる、


寒い季節の中体内をむき出しにして死んだ人間たちが湯気を上げている…、


臓物と弾けとんだであろう人の顔の欠片、体に纏わりつく誰かの手足…


ここは血の池地獄だ。


聴覚が蘇ってくる、


悲鳴や怒号、銃声、爆撃、


ここは…戦場だ。


感覚が蘇る…。


身体中に痛みと言う名の感覚が蘇る…。


そして俺が意識を完全に取り戻した時気が付く…。


足が…。


自分の足がなくなってることに…。


そして…。


「うぉおおおおおおおっぉおぉぉっぉぉぉっぉおぉお!!!!!」


俺は新たな世界で産声を上げた…。


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