第十二話 戦術のススメ

 二日後、つまり昨日ギュンター邸から出発して丸二日たった

久しぶりのブリニスト、そこにあるカフェ『ラバン』

俺は以前と同じようにいつもの席でそこでコーヒーを飲みながら

以前とは違うことしていた


「…少尉さん久しぶりに顔を見せたと思ったらまた読…あら違う」


そうして、彼女、クレマンが顔を出すここ数ヶ月繰り返してた日常が

一応の形で戻ってきた


「トロイ、私とサブリナで書いた絵に何でこんな線引いてるの!?」

「…私達、何か悪いことしましたか!?こんな仕打ち…」


騒がしいのが俺の隣に座ってるって点をのぞけばまぁ


「あらあの時の可愛い芸人さんじゃない、今度は何やってるの?」


「「あー!あの時トロイをけしかけて逃げた人だ!」」


双子ことエレーナが声をあげる俺も色々あったせいで忘れていたが

そんなこともあったな、まぁ俺気にしてないが…謝ってくれても良いんだけど


「そんなことあったっけ?覚えてないなぁ」


まぁ酔っ払ってたし覚えてないわな…


「それより少尉さんはその子達と一緒に何遊んでるんですか?ボードゲーム?」


まぁこれのことか、実はこれに関してはちょっと深い事情があった

というのも、アレだけギュンターの前で色々大演説をのたまったが

戦略、戦術はさっぱりだったのでそこらへんを埋めるためにと

事前に持ってきたあの男の作戦計画立案書から学ぶ為にと

地図を購入し、その他細々した物を買って乗車し

車中では所謂“兵棋演習”をひたすら続けていたのだった

そして嫌がるエレーナにここらの略図でいいから地図より少し細部まで書き込んだ

専用の地図を描かせて、3600個に区分してから今に至っている

なんか丸一日かけて一生懸命描きましたって顔してから

言わない方がいいかなと思ったがやっぱこうなるか


「昨日からこれやってるの知ってるだろう、喚くんじゃない」

「「横暴だ!部屋に戻ったらいきなり絵を描かせて、こっちも疲れてたのに!!」」


うるさいやつだなぁ


「ねぇ、小さな子どもの絵に落書きしてまで少尉さんはないやってるの?」


こっちもマイペースだなぁ…


「まぁさっき君が言ったとおりのボードゲームさ」


「何で市販のゲームじゃ駄目なの?」


うーんまぁそう言われると返答に困るな…


「お姉ちゃん馬っ鹿じゃないそんなのグンジキミツに決まってるジャン」

「ゾフィーの言うとおりだと思いますわ」


何でこの左右の一人二役の人はケンカ売り始めてるの!?


「お嬢ちゃん達には聞いてないのよぉ…」


やっべ怒ってる、クレマン笑顔だけど声も目も笑ってない


「「子どものいうことに何ムキになってるんだか」」


この馬鹿!また二役忘れて一人になってるぞ!!って言うか

なんだこの展開!!


「少尉さん!!」

「「トロイ!!」」


なんでこっちに…


「落ち着きなさい、三人とも、これはあくまで私の趣味の範囲だから…

 軍事機密というよりは自主訓練みたいな物だよ」


クレマンはその言葉に満足したようだったが

数日間の間に随分腹割った喋りかたしたせいかこのしゃべり方が

外向けの対応に見えたらしく、双子のほうは凄くむくれてる


「大変そうですね、リュ-グナー少尉」


ここで更に誰かの声がする俺を知ってるこの声は


「ジークリット…」


あの男の娘だ、余所行きで男性旅行者の服を着ているが

ただの男装の麗人にしか見えない


「…女の人…」


ここに来てクレマンが妙な反応をしだした!

まぁそう思うのも無理からぬことだがこいつは男なんだクレマン!


「かの…彼はヴォルフガング・ジークリット…男性だよクレマンさん」


「そうです、ボクはヴォルフガング・ジークリットといいます

 気軽にヴォルフって呼んでください」


「よろしく…“ジークリット”さん」


そのようなやり取りをしているとジークリットは少しへなっとしたが

すぐさまシャキッとし俺の方に向く


「ギュンター卿の命により、トロイ・リュ-グナー少尉と共に

 極秘任務の技術顧問として着任しました!」


一瞬思考が止まったが、まぁ確かに魔法云々を話す際にはこいつみたいな

専門家がいるか、餅は餅屋というしな


「これから、少尉のお部屋でお世話になりますね、ホテルとか高いんで

 こう見えてボクお掃除とかお料理とか上手なんですよ!」


お前は何をいっているんだ、お前は


「フーン…へぇー…押しかけ女房ってやつか」


そういうとクレマンは俺の生の足を思いっきり踏みつけ

不機嫌そうに席を立ちさっていった


「痛っ!クレマン!、君は誤解している!」

「そうですよ!!女房ってそれじゃボクが女になっちゃうじゃないですか!」


ジークリットお前はもう黙れ!!

その余計な一言はクレマンの耳には入らなかったのか彼女は

そのままむくれて去ってしまった

少し前まではこの時間は案外俺にとっても居心地のいい時間だったのかもな

しかし今では、女にしか見えない男がいたり


「なんです?」


元は一人の人間だった双子が左右に座ってたり


「なんだよ?」

「なんです?」


随分騒がしくなったな…またクレマンだけでもどこかに誘ってみるか

デートというつもりはないが、まぁギュンターとの一件は俺にとっても

他人事では無いみたいだしな…

まぁ休暇というかそういうことを考えるなら先ずは仕事だな

まだ表に出せる状態ではない、この計画をより完成度の高い物にする為にも

戦術計画を立ててみないとかなわんのだが

運用の際の“試験運行”に関しては

俺のアイデアを元にギュンターが何とかしてくれるだろうが

問題はそれをパスしたあとの戦術だ正直、通常のものとは違うし

おいそれと話せるものではないしな

なのでこのように、自前で図面や駒の替わりを用意して兵棋演習を行っているが

この戦術というのは本当難しいもんだな、とつくづく思わされる

用兵家というものはこんな面倒臭い事考えてるんだな


「少尉、これってもしかして兵棋演習って奴ですか?」


お?ジークリットの奴自称男と名乗ってるだけかと思っていたが

こういうのがわかるのか?どちらかといえばテクノクラートの筈なのに


「わかるのか?」


「父が軍人だったんで、僕が知ってるのは今より前の戦列歩兵とかので…」


あー並んで撃つ奴ね、知ってるこっち来て本で読んだわ

俺ってほっとんどの知識が吹き飛んでたからなぁ、もしかしたら

前世の記憶があったらもっとなんかこう凄いなんか出来るような気がするんだがなぁ

まぁいいや


「親父さん軍人なのか、へぇでも君はギュンターの元にいるって事は親父さんは…」


女だから軍属に入れさせなかったとか?いわゆる男として育てたがやっぱ女だしなぁ的な

それとも軍にいくら男です説明しても無理だったので諦めてしまったとかかな

見た目がなぁ、女っぽいとか中性的じゃなくて女すぎるんだよな

チンコがあるように見えない、顔や体の全てが男性であろうとする努力を放棄してる


「戦争から誇りが消えてしまったから、今の戦争に行かせたくなかったんですって

 変な父親ですよね、戦列歩兵とかの方がよっぽど酷いのにそっちだったら

 息子を死地にやってたのかもしれないなんて…」


うーん息子を戦争に取られたくない方便なんだろうなきっと、本気で言ってるなら

少々興味が引かれるな


「ちなみにジークリット、君は長…男なのか?」

「そうです!長男!!男です!」


間髪いれずに食いついてくるなぁ、まぁこいつの親父かぁ

なんかちょっと興味がわいてきたな、軍人家系だったのか

というか


「ギュンターからの名で来たのなら何か預かってないか?」


「あ!ありますよ一応正式にこちらの基地にもご挨拶してから渡せって

 言われましたが予定より早くついちゃって、でも…見ます?」


そうか正攻法で攻めてきたのかギュンターめ、あいつただのお人よしでもないな

それとも、ヨハンに口でも利いてもらったかな?

だがあのヨハンとか言う男も公私を混同する男でもないし

聞けば“この体”とは因縁があるそうだし

となると胡散臭い部署とはいえその構成員が貴族ばっかだから出来た

力技だろう多分、公式に俺の作戦が動きはじめてるって考えていいんだろうなぁ

まぁあくまで、軍人としての職務だが…


「いや、明日読ませてもらうとしよう、なら君はそこの2人に

 私の部屋まで案内してもらって長旅の疲れを少しでも取っておいてくれ」


「少尉はどうなされるんですか?」


「私は少し用があるのだ」


そういうと、双子に案内させるようジェスチャーで促す

双子は嫌々承諾した感じでジークリットを連れて行く

あいつもなんなんだ全く…

まぁ、魔法使い同士仲良くしてもらわないとな

何せあの魔法か魔術とかいうのは

双子が使えってるのを見て「俺でも使える?」って聞いたら

やり方に関しては教えられないときっぱり言われたしな

ギュンターに至っては人には向き不向きがあるって言われたし

やはり、科学どうのといっても魔法は所詮魔法といった所か

出来る人間と出来ない人間に分かれてしまうんだろう


まぁ任せた以上は信じるしかないが…自分が把握できないことというのは

実に不安に駆られるものだな…さてと

じゃこっちも用事に向いますか

戦術の教師のもとへと…

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